2013-'14 A/W MILAN COLLECTIONS

メイド・イン・イタリーの課題。 14 JUN. 2013

TEXT MIYUKI YAJIMA

 政治の混乱が続くイタリア。いくらかでも国庫を潤すべく、数年前に溯って、税金の追徴金を探し続ける役所。いくつかの大手のメゾンが国外に会社を移す意向まで漏らす状況にある。多額の税金を納めるこれらの企業が次々とイタリアから出て行けば、この国に落ちるお金はさらに減る一方となる。それによって失業者も増えよう。こうした状況は、世の中の混乱をさらに呼ぶことになると言える。

 18年後には中国やインドネシア、インドなどのアジア勢が世界の中枢を担う、という予測がある。その頃には、日本もアメリカもヨーロッパも衰退すると言われる。いわば、歴史が始まって以来の膨大な数の中産階級が世界の中枢を占めるという時代の到来とも言える。それは操りやすく平板なコミュニケーションで十分な時代の到来でもある。もはや文化の深さは必要とされない、いやむしろ邪魔になる。世の中でコミュニケーションがスムーズに進むために必要なものは、深い教養や文化ではなく、共感し合える日常の感情や一律の基準に則ったものの価値となるのだろう。高級既製服の世界が照準を合わせるべき消費者層はどういう人々になるのだろうか。

 さらに、イタリアのファッション業界が抱える問題は、他の4都市(パリ、ニューヨーク、ロンドン、東京)とは大きく異なっている。ファッションがショーや展示会、見本市などを開催して販売が成立すれば完結する他都市とは違って、イタリアは生産国なのである。縫製メーカーや素材メーカーの立場を無視する訳にはいかない状況にある。とはいえ、かつてのように一手に世界のファッション関連の生産を引き受けて、悠々と進んでいけるような世界状況ではなくなってしまった。生産基地としてのイタリアにはすでに1990年代までのような、市場を独占する力はない。グローバル化によって、ブラジルやインド、シリア、トルコ、中国などの生産国が次々と成熟している。しかも、人件費の価格競争においては、イタリアに勝ち目はない。唯一、誇れるのはメイド・イン・イタリーの代名詞たる高品質。しかし、それも既製服消費市場の内容の変化によって、人々の高い品質への感受性が鈍り、必ずしもそれをよしとする訳ではない人々が少なくない今、先が思いやられる。どれだけいい物を作ることができたとしても、その需要がなくては意味がない。しかしながら、表立って問題視されるのは、常にブランドの部分のみであってその製造部門については、ほとんど語られない。生産メーカーの組合とイタリアファッション協会とが手を結んで動くことが要求される時代なのである。

 4日に1軒の割合で商店の中でも特にブティックが潰れているミラノ。不況を煽るかのように、今コレクションは雪と雨に見舞われた。2月20日から26日までの1週間、ショーに次々と現れる毛皮の感触を夢見るほどに寒さの厳しい日々が続いた。確かに、反対運動が活発になるほど毛皮の使用が目立つコレクションだった。合計70ほどのランウェーショーと49の展示会、パーティやショップオープンなどのイベント、そして新たに始まった服飾雑貨を中心とする、ピッティ・イマージネ主催の見本市「SUPER」、新人だけを集めた最終日の合同ショーなど、いつもながらに慌ただしく過ぎた1週間であった。「SUPER」は初回から既に250の出展を見て、人々の関心がアクセサリーに集中していることを改めて証すものであった。

 2013-'14秋冬シーズンのミラノが訴えるのは、強い女性像である。プラダの心の内側を表現するかのような女性たち。ジョルジオ アルマー二のマスキュリン。従来の深く開けた胸元に代わって現れたのはタートルネックやハイネック。グッチのパワフルな女性像。ドルチェ&ガッバーナの王冠を頭に乗せたビザンチンの女性たち。フェンディのパンクで贅沢なスタイル。エレガントであり、動じない強さが光る女性の姿。規則に縛られない女性たちがそことなく透けて見える。そうした印象は、例えば太いヒールの存在感のある靴にも伺われる。ツイード、シルクタフタ、極太のニット、モッサ、エナメル、ベルベットといった素材、千鳥格子、縞、タータンチェックなど、英国風の紳士服素材や柄を用いたコートやジャケット、その確かな仕立てにも現れている。色は、グレー、スカイブルーやピンク、グリーンの他、ゴールド、キャメル、オレンジ、レッドなども目立った。

2013-'14 A/W MILAN COLLECTIONS

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01 ドルチェ&ガッバーナのショーのフィナーレに登場したモデルたちは、エンブロイダリーレースのドレスを着て登場。 0203 「GARÇONNE」をテーマにしたジョルジオ アルマーニ04 モヒカン風のヘアスタイルが目を引きつけるフェンディ05 千鳥格子やプリンス・オブ・ウェールズを大胆に使ったグッチ。トップの写真は、ドルチェ&ガッバーナのショーのバックステージより。

 今回は、1920年代から'30年代以降の過去の服飾史がヒントになった、一見クラシックで既視感に充ちた内容に見えた。それは、伝統への愛着や尊重の表現でもある。しかし、現実には、複数の異素材を自在に組み合わせ、テクノロジーと手仕事を駆使して、垣間見たところでは何気ない、しかし、実際には想像を超えたオブジェのような服が登場した。

 これまでと大きく変わったのは、袖から肩にかけての線が丸くなり、オーバーサイズでボックス型のフォルムが目立つ点にある。フレアスカートやAラインの服も多い。これまでの身体にぴったりと沿ったシルエットが、今シーズンは身体から大きく離れるデザインに変化したということである。この10年以上、メンズも含めて身体に密着したような服が当たり前になっていた。服は身体の形を見せるものであり、常に身体をシェープアップして服によって浮き立たせることが、ファッションとなっていた。大切なのは美しく鍛えた体だった。身体の美しさを訴えることこそがファッションの目的であったとも言える。オーバーサイズ、丸い肩や太い袖。これらは別のコンセプトである。身体を土台にして、服という名の三次元のいわばオブジェをそこに載せる。従って、体は二次的な存在になってしまったのである。ある意味、今回のコレクションでは再び、伝統的な本来の服と身体の関係に戻ったと言える。クラシックなコレクションであったという観察には、そうした意味も大いに含まれている。

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肩から袖にポイントを置いたプロポーションが象徴的なルック。01 ジル・サンダー 02 フェンディ 03 ロベルト カヴァリ 04 エンポリオ アルマーニ 05 エトロ 06 ドルチェ&ガッバーナ 07 グッチ 08 MSGM 09 スポーツマックス 10 マルニ

 圧巻はプラダのショーの演出であった。周囲の壁面には、鉄製の塀や建物の一部、高いところから差し込む光などが映されている。そういった空間にモデルが現れて歩く。ある者は髪がウエットで、ある者はきちんと整えられている。モデルたちは役者のようであった。ファッションとアートの関係が語られるようになって久しいが、これまでは、単にアートからヒントを得たデザインを服の上に施したのにすぎなかった。今回のプラダは、初めてファッションがアートになったと言える。服から感情が醸し出される、ということをミラノで経験したことはなかった。ビデオ、舞台装置、音楽、そして服を使って総合的に感情に訴えてくるショーであった。

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写真は、プラダのランウェーショーより。洋服、モデル、舞台、音楽、すべてが一体となった完成度の高いコレクションを見せた。

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