2014 S/S MILAN MENS COLLECTIONS

進化する技術と変化する男性像。 5 AUG. 2013

PHOTO HISAYUKI AMAE
TEXT MIYUKI YAJIMA

 不景気が続くミラノ。今年5月のイタリアの失業率は、若者が約40パーセント、全体では約12パーセントに及ぶ。購買力は1970年代まで下っているという発表である。大規模な企業の中には、イタリア国外に登記を変更するところも出ている。人々の不安は、将来よりも月末まで給料で賄い切れるか否かというところまで来ている。パン屋のような日常の食料品を扱う店にも閉じるところが出る始末。衣料品店に及んでは言うまでもない。大手の店も近年これほどの不景気を味わったことがないと語る。それでも、人々はバーゲンを待つ。この二ヶ月間の、ミラノの商店街での一人当たりの平均の買い物総額は約125ユーロ。昨年は約140ユーロ、一昨年は約170ユーロと、年々落ち込んでいる。シャッターが閉まって、貸店舗、あるいは売店舗の広告が貼られた店も少なくない状況では、とにもかくにも在庫を売らねばと、店側も必死である。値引き率が70パーセントに及ぶところも少なくない。ラグジュリーショップが並ぶ商店街に近い区域にある、婦人服店のウインドウは、全品30ユーロと大きな数字が張り出されているが人影は少ない。モンテナポレオーネ通りからエマヌエレ通り一帯の買い物客の中心は中国人とロシア人。イタリア人ではない。イタリア人が買うのは、主にTシャツとシャツ、そしてジーンズ、靴。市の中心にある商店では7月10日と17日は夜の24時まで営業して様子を見るという。

 こういう時勢の中であるが故に、外国人客に期待を寄せる企業は少なくない。ピッティ・イマージネ・ウオモ(以下、ピッティ)もミラノ・コレクションも入場者数は増えているとのこと。ピッティは、ミラノ・メンズコレクションの前にフィレンツェで開かれる紳士服の見本市。参加ブランド数が多いので、そこではシーズンの傾向を伺うことができる。かつてこれに来る人々の目的は、クラシコ・イタリアであった。そこで見られる完璧なサルトリア仕立ての、優れた素材によるスーツやジャケット、あるいはネクタイや靴は、イタリアのダンディな紳士服の代表であった。
 1043のブランドが参加して開催された2014春夏シーズンのピッティでの印象は、クラシコ・イタリアの変容であった。カジュアルでスポーティ、これまで以上にシック。バミューダパンツ、シャツジャケット、ストレッチデニム、極薄のテキスタイルなどが目につく。過去の紳士服が伝統的なスーツとラフなブレザーやポロシャツなどに二分されていたのに比べると、明らかに細部へのデザインにおいて大きな違いが見られる。アートの表現(ラルディーニ、セラフィーニ)、デジタルプリント(ロイ ロジャース)、人工素材と天然素材の組み合わせや熱による溶着、レーザーカットなどのテクノロジーの応用(ヘルノ)、そして各種ストレッチ素材の積極的な利用が特徴で、細やかな意匠がそこかしこに散りばめられている。細やかな配慮がそこには充ちている。その分、服のタイプも増えている。ピッティの会場は、無数の宝石がそこかしこにさんざめくかのようなバラエティに富んだ華やかさを感じさせた。

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01 美しいテーラリング技術に定評がある、1978年創業のラルディーニ。今シーズンは、コーヒー豆用の麻袋を使ったジャケットが登場。02 ピッティ・イマージネ・ウオモ(以下、ピッティ)の会場にある中央広場の風景。03 ピッティでプレゼンテーションを行った注目の若手ブランド、MSGM。04 1949年創業のヘルノは、先端技術を積極的に導入しているブランド。中でもダウンジャケットは薄手で軽く、ヘルノを代表する一品。トップの写真は、ピッティで発表したカラーのショーの風景。

 今回のミラノ・メンズコレクションは、言うまでもなくピッティの傾向に重なっている。スポーツ、カジュアル、自由、優しさ、脆さ、繊細さ、夢想的といったイメージを伝える内容であった。テクノロジーの応用も一段と進んでいる。ストレッチデニム、革ひもによるトリコットなども当たり前に存在し、バミューダパンツ、布帛によるTシャツ、シャツジャケットなどが主役である。
 特に目立ったのは花柄である。グッチ、ジル・サンダー、プラダ、ピッティに参加したカラー、それぞれが選んだ花の表現は異なるが、花というモチーフで一致している点には注目せずにはいられない。若い世代もMSGMに代表されるように、やはり積極的に花を用いてエキセントリックなスタイルを見せている。

 グッチは、インドネシアの更紗、あるいは18世紀のトルコの焼き物の絵柄を思わせる様式化された花のプリントによるアイテムを発表した。色彩は、ボルドー、グレー、ベージュ、黄色など、マスキュリンな印象である。しかも、ジャケットの内側の処理は熱による溶着技術を使用している。これまで熟練した職人による精巧な手仕事にこだわってきた同ブランドにとっては、大きな転換である。
 花柄はジル・サンダーにも用いられた。白地に鮮やかなピンクで抽象化された花柄が描かれたジャケット。柄といい、色彩といい、華やかな雰囲気が特徴である。裾の処理には、やはり熱処理が施され、全体の印象が軽い。
 一方、プラダはアロハシャツを思わせるハイビスカスやブーゲンビリアが描かれたシャツなど、一般の中産階級の夢を描いた。いくらかダークでミステリアスな印象はなぜなのであろうか。エンポリオ アルマーニは花柄を使用していないが、肌が透けて見えるシャツやパンチングを施したレザーパンツなどを、目にうっすらと化粧を施したモデルに着せて、そこはかとなく漂う危うさを訴えていた。ディーゼル ブラック ゴールドさえも、ジーンズやジャケットにボタニカルな装飾を施している。ジョルジオ・アルマーニも男女の服装の接近について語っており、今シーズンは優しくロマンティックな男性像を彷彿とさせる。陶器や壁紙などに抽象化された花柄が目立った18世紀のロココ時代は、マリー・アントワネットなど、女性の力が目立った時代でもある。

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 また、ボタンではなくファスナーを隠して使用したり、裏地を省いたり、軽量のミクロファイバー、ナイロンや網を使ったり、裾の溶着処理を用いることによって、服はとても軽くなっている。軽さは弱さにも通じる。そこに花柄が加わったことによって、印象はさらに柔らかくなる。フェミニンな印象ということもできる。カシミアやタスマニアウールを使って丹念に伝統的なフォルムを作ってきたミラノの紳士服も、ここにきて大きく価値観を変えた。望まれる紳士の姿の変化にほかならない。その背景には、社会的な男女の関係の変化が横たわっている。1970年代に同様の現象を指して命名されたピーコック革命を思い出す。

 ファッションへのアートの侵入は進む一方である。特にショーの演出において著しい。前回のミラノ・コレクション以来、本格的にビデオをアートとして使った演出がとても増えている。カラーも巨大な壁面を使って、映像を投影していた。中でもステファノ・ピラーティが率いるエルメネジルド ゼニアの舞台のビデオが圧巻だった。音楽、演出、映像、この三つの要素を扱う、それぞれの分野の専門家を選び、彼らがチームを成して作り上げたビデオは、ゼニアの工場の中にある織機の動きをモチーフにしたもの。企業の長い歴史をテーマにしつつも、大げさに賞賛する内容ではなく、軽やかにアイロニーでまとめるという方法で成功していた。2年ほど前の、暖炉の中に揺れる炎を映したビデオを見せていた頃に比べると格段に時代が変化している事実を感じさせられる。異領域の融合は進む一方である。

エルメネルド ゼニアのランウェーショーでは、円形の舞台を取り囲むようにスクリーンが設置され、オリジナリティ溢れる映像が映し出された。その模様を動画でチェックしてほしい。



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