2013-'14 A/W MILAN MENS COLLECTIONS

転換期を迎えるミラノ・ファッション。 15 MAR. 2013

TEXT MIYUKI YAJIMA

 世界経済の変化が顕著な昨今、イタリアのファッション産業も例外なく、そのあおりを食らって喘いでいる。メーカー機能を持つ国であるが故に、より深刻な状況にある。イタリアの経済的な失速は、政治上の問題と密接に繋がって加速している。2012年のイタリアのテキスタイルとファッションメーカー合計6万社の輸出高は、2.4パーセント増えてはいるものの輸入は9.1パーセント減少し、国内消費に至っては8パーセント減を示している。失業率は国民総数の11.7パーセントに及ぶ。統計によれば、ファッション関連業社の44パーセントが今後について危惧を隠しきれないと表明している。

 イタリアのもう一つの産業である自動車も、失業者がすでに4万人を超えた。各分野において、経済の構造が大きく変わってきており、これまでと同じように物事は進まない。広告の掲載についても、ハッシュタグ(注1)へのシフトが進み、街中の広告塔には空白が目立つ。

 ヨーロッパ共同体の労働条件についての規則が逆に手工業の再生を妨げている上、イタリアでは税金の引き上げ、電気料金の値上がり(アメリカの約5倍)によって、暮らしがますます困難になってきている。ドルの価値を下げて輸出を増やそうとするアメリカの政策も災いしている。欧米の需要が低迷すれば、新興国の経済も当然、その影響を受ける。そうなれば、期待していたほど新市場からの利益も受け難くなる。今や世界経済は大きく連なって存在し、一つの国家では完結しない。

 2月25日の国政選挙の結果次第で、国家財政、民間投資などに大きな影響が出るはずである。いずれにしても、ヨーロッパ共同体のメンバーである限り、共同体の体制や規則を無視することはできない。ドイツ首相のアンゲラ・メルケルの深い信頼を集めているマリオ・モンティ元首相が、再選されるのか否か。あるいは、国民に迎合するベルルスコー二が返り咲くのか。独自の体質に基づいた国家であるイタリアの抱える問題は多岐に及んでいる。

 選挙までかれこれ40日あまり、という日程の中で発表されたミラノ・メンズコレクション。期間は1月12日から15日までの4日間。ショーが37、展示会の形式をとったメゾンが34。その前日までフィレンツェで開かれていたピッティ・イマジネ・ウォモのトレンドも重なって、ミラノ・メンズコレクションも、ストライプ、チェック、ツイード、フラノなど英国の伝統的な柄や布地を用いて、現時点におけるクラシックの表現を探ったシーズンであることが伺えた。

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今シーズン、スーツやコートを中心に多くのブランドで使われたチェック。タータンチェックやグレンチェック、ギンガムチェックなど、トラディショナルな生地が、現在のメンズの主流と言えるクラシックなスタイルにアクセントを与える。

 モノトーンでクラシックかつ、フォーマルな印象のコレクションを見せたボッテガ・ヴェネタのト―マス・マイヤーは「時代は真面目さを望んでいる」と言い、プラダのミウッチャ・プラダは「ファッションは教養である」と語っている。キャメルのコート、シェットランドのセーターから覗くチェックのシャツ、くるぶし丈、股上が浅いパンツ、主張する靴。ミウッチャは、さらに「中産階級と資本家階級の間にいる現代のエリートたち。彼らにとってのクラシックとはどういうものか」を提案するコレクションであるとつけ加えている。

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左の二枚はプラダのランウェーショーより。その他は、ボッテガ・ヴェネタのコレクション。

 ドルチェ&ガッバーナでは、今回も80人近い数のシチリアの一般人モデルが参加した。フィナーレでは、モデルたちが守護聖人をプリントしたTシャツにスラックスという格好で歩く演出が見事であった。シチリアのアイデンティティという言わば同ブランドのクラシックなコンセプトの確認とも言える。一方、フリーダ・ジャンニー二がディレクションするグッチも、グレンチェックや千鳥格子などで英国の紳士服の伝統を訴えつつ、さらにミリタリータッチのデザインとの対比も加えながら、セクシーでグラムールなコレクションに転換していた。クラシックという視点で新たな提案をしていたのは、ポール・サリッジ率いるジー ゼニアである。一見したところ、クラシックな存在感に充ちてはいるものの、よく見ると高温処理、縫い目の無い服、3D効果を与える素材の選択といったテクニカルなマテリアルへの探求と、エネルギッシュな色彩が新鮮で訴求力が強い。

2013-'14 A/W MILAN MENS COLLECTIONS
写真は、ドルチェ&ガッバーナのフィナーレ。前シーズンに続いて、シチリアの一般人がモデルとした参加したランウェーショーは、このブランドらしい強いインパクト残した。

 もう一つの特徴は、オーバーサイズ。ディオール オムの影響で年々、タイトなシルエットに変化していった紳士服。特にコンパクトなジャケット、細身のパンツが定着していた。しかし、ここに至って1980年代風のボックス型のシルエットが増えてきた。オーバーサイズのように見えるコートやセーターが提案されているところも見逃せない。ヴェルサーチもシルエットに変化を加えている。グッチやジョルジオ アルマーニのセーターは、モヘアやウールを使ってたっぷりとした分量感がある。

 また、スポーツウェアの要素も随所に見られる。シャツの代わりのポロシャツ。スウェットパーカーやジョギングパンツ。インパクトのある靴。ブルゾン各種。都会派が憧れる田舎の空気。その両者を上手く混ぜ合わせたのは、ウミット・ベナンが手がけるトラサルディ(注2)。フランネルのジョギングパンツ、スーツに合わせたスニーカー、ゴム引きのマントが印象的である。ジョルジオ・アルマーニ本人もスポーツが唯一、紳士服を変えさせる力を持っていると語っている。

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写真左は、トラサルディ。右上の二枚は、ウミット ベナンのコレクションより。下の二枚は、グラフィカルなスウェットシャツが印象的なニール バレット。

 ヴァレンティノやバーバリー プローサムなど、迷彩柄を用いるメゾンが目立つのも今シーズンの特徴。ミリタリーの象徴でもあるが、この柄が感じさせる曖昧さは、現代の価値観の象徴でもあるように見える。アントニオ・マラスが新たに手を組んだピグアドロにおいても、迷彩柄が上手く使われ人目を引いていた。

アントニオ・マラスがデザインを担当した、ピグアドロのコレクションのイメージ映像。ピグアドロは、トラベルバッグやビジネスバッグを中心に手がけるイタリアのバッグのブランド。

 エトロは、巨大な曼荼羅を掲げてミスティシズムに関連したプリント柄やチェック、縞、織柄、アニマルプリントが印象的だった。世の中が精神世界への関心を露にし始めた昨今、このブランドの作品を見ると曼荼羅ももはやエキゾチックな存在ではないように思える。他に先駆けてこうした分析を行い、服のデザインに応用するというのもエトロならではのアプローチと言える。

 コレクションの発表方法についての試行錯誤は以前から始まっていた。ライブストリーミングが当たり前になってきた近年、ランウェーショーについて新しい手法を模索するメゾンは少なくない。今シーズン、ロベルト カヴァリはショーを取り止めた。しかし、ショー以上にお金を掛けて修復した建物を用い、手作りの展示設計を実現させ、大成功を収めた。その他のメゾンでは、舞台の背景に3D映像を流してショーにアート的な要素を加えることで、ショーと現実の距離を縮めることを試みていた。映像の使用は今後も増加の一途を辿ると思われる。テクノロジーの応用は、常にファッションの世界から始まる。

注1......ツイッターにおいて、特定のテーマの投稿を検索して一覧表示するための機能。 大手のブランドは、この機能を使い、広告に頼るよりもいち早く、人々に最新情報を 発信している。
注2......2月27日、トラサルディは2013-'14秋冬ウィメンズコレクションをもって、ウミッ ト・ベナンとの2年間のパートナーシップ契約の終了を発表。

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