london

勢いづく、ダイバーシティなロンドン。 1 APR. 2013

TEXT MINA WAKATSKI

 2月15日から19日まで開催された2013-'14秋冬ロンドン・コレクション。5日間に公式スケージュールだけでも90ブランドのショーやプレゼンが行われたが、初日にニューヨークから入り、最終日にはミラノへと発つ著名なジャーナリストやバイヤーを考慮し、注目ブランドは中3日に集中。朝9時から食事をする隙間もない12時間マラソンのようなスケジュールに、初めてロンドン・コレクションを取材した日本のベテランジャーナリストは、パリコレよりも過密と驚きを隠さない。いつからこんなことになったのだろうか。25周年を機に、バーバリー プローサムやジョナサン サンダースら他都市で見せていた有力な英国ブランドがロンドンに戻った2010春夏シーズンが転機。それまで新人、あるいは国内のマダムをターゲットにしたベテランブランドの場だったロンドンは、あらゆるタイプの英国発のクリエーションが一同に集まる場へと変貌を遂げている。それは年々充実し、今シーズンはトム フォードの参加でさらに一歩進んだ。これまで頑なに写真の公開を拒み、ショールームでのプレゼンやフロアショーを行ってきたこのブランドが、カメラマンを入れた初めての大掛かりなショーをロンドンで行ったのだ。その世界的な著名デザイナーによる気が遠くなるような凝った手仕事が盛り込まれたゴージャスなショーは、ロンドン・コレクションをよりインターナショナルな地位に持ち上げた。トム フォードは、今後もロンドンで見せ続けることを宣言している。なぜロンドンなのか。自身はアメリカ人で会社もアメリカの会社だが、クリエーションの拠点はロンドンに置く、れっきとした英国発のクリエーションなのである。今シーズンのコレクションを終えて 「ダイバーシティ」という言葉が頭に浮かんだ。多様性という意味だが、あらゆる民族や文化、価値観を吸収し、独自のスタイルを築くロンドンの街を表現する時によく使われる言葉である。

london
民族服からストリートファッションまで、さまざまな文化をミックスしてゴージャスなコレクションに仕上げたトム フォードのショーは、まさにダイバーシティな魅力に溢れていた。トップの写真は、アニヤ ハインドマーチのコレクションより。

 ダイバーシティーなロンドンは、さまざまなタイプのウェアブランドに加え、アクセサリーデザイナーが脇を固めている。公式スケジュールには、新進帽子ブランドを集めた展示コーナー「ヘドニズム」や、ハイジュエリーブランドを集めた「ロックヴォルト」のオープニングイベントも組み込まれている。最終日に行われたアニヤ ハインドマーチの新作発表は、プレゼンというよりも3分間の見事なショーで観客を圧倒した。客席に囲まれた中央の大きなステージには、ドミノチャンピオンが通常なら40日掛かるところを8人の助手を動員して5日で仕上げたという5万ピースのドミノが並ぶ。ショー開始と共にそのドミノ倒しが始まり、巨大なタッセルを飾ったレディライクなハンドバッグやサイコロ柄のクラッチなどの新作がせり上がってくるという仕掛けだ。また、注目の新進シューズデザイナー、ソフィア・ウェブスターのカラフルでファンタジックなモデルを使ってのプレゼンテーションも印象的だった。

london
londonlondonlondon
左と右上は、ドミノ倒しでグラフィカルな色の組み合わせに目を向けた、見事なショーを展開したアニヤ ハインドマーチ。ショーはリハーサル無しの一発勝負。この模様はアニヤ ハインドマーチのオフィシャルサイトで見ることができる。右下の2枚は、注目のシューズデザイナー、ソフィア・ウェブスターのプレゼンテーション。デビューから2シーズン目とは思えない完成度。

 3月中旬、バーバリー プローサムが次回の2014春夏シーズンから、レディスに加えてメンズもロンドンでランウェーショーを行うと発表した。アレキサンダー マックイーンは前回からメンズはロンドンで見せているが、レディスは依然パリ。到底無理だろうと思われていた、マックイーンとステラ マッカートニーのロンドン帰還もあり得るかもしれないと思わせるこのニュースに、改めてロンドンの勢いを感じる。

london
写真は、ミラノで発表した、バーバリー プローサムの2013-'14秋冬メンズコレクションのフィナーレ。次のシーズンから発表の場をロンドンに変え、どのようなランウェーショーを見せてくれるのか期待が膨らむ。

 コレクションの傾向は、フラノやメルトンといったクラシックなウール素材に、さまざまな表情のレザーやポニースキン、シープスキンなどを加え、柄よりもテクスチャーにこだわったエレガントなスタイルが台頭した。こうした他都市でもリードしたエレガンス回帰の流れと共に、パリやミラノの有力ブランドがこぞって見せたエロティズムやセクシャリティーといった要素も散見された。その代表がバーバリー プローサムとジョナサン サンダースだ。

 バーバリー プローサムは20世紀最大の英政界スキャンダル、プロヒューモー事件で知られる1960年代のセックスシンボル、クリスティン・キーラーがインスピレーション源というだけでもいつになくエロティックな気分。肌や下着が透けるラバー素材が多用された。ジョナサン サンダースはビスチェやコルセットを象ったアイテムや、肩を落として着る赤いサテンのドレスの胸元からブラジャーが覗く挑発的なデザイン。共に、ブランドが始まって以来のセクシーなコレクションと言える。しかし、どちらかというと、エレガントなイメージが勝っている。バーバリー プローサムでは、今シーズンのイットモデル、カーラ・デルヴィーニュが着るさまざまなレオパード柄のセーターの下に合わせたトレンチカラーのラバースカートから、ハート模様のデカパンが透けるスタイルがテーマを象徴していたが、シャム猫というよりもやんちゃな子猫といったイメージの健康的なカーラとあって、嫌らしさはまったくない。ラバーやアニマル柄のポニースキン、ハート模様の刈り毛のミンクなどを多用したトレンチスタイルも、「永遠のロック魂はお休み?」と思わせるような実にシックな仕上がりだ。ジョナサン サンダースは、ウール素材を多用したワンピースやテーラードコートが目を引いたこともあり、セクシーなアイテムはあくまでアクセントで、本命はクラシックエレガンスという印象が強かった。マスキュリンなアイテムをエレガントにデザインする傾向も多くのブランドで見られ、ダックスはテーラードスーツ、マーガレット ハウエルはミリタリーをベースに、ソフトで優しいスタイルにまとめた。

londonlondonlondonlondon
london
左上の2枚と右の写真はバーバリー プローサム。透けるラバー素材とハートのモチーフが目を引くコレクションのテーマは「TRENCH KISSES」。右の写真は、注目のイットモデル、カーラ・デルヴィーニュ。左下の2枚はクラシックな重厚素材にセクシーなデザインを盛り込んだジョナサン サンダース。

 そして新進デザイナー。色鮮やかなプリント柄のドレスを前面に出し、着々とビジネスを広げている彼らだが、そんなシグネチャースタイルもそろそろマンネリ化。今シーズンは次なる可能性を探り、新しい試みに挑戦する動きが目立った。その代表とも言えるメアリー カトランズはエドワード・スタイケンらが19世紀末から20世紀に掛けて撮影したモノクロの風景写真をモチーフに、色を突き放した着物風の直線カットのドレスをデザイン。ピーター ピロットはエル・グレコを筆頭とするスペインのルネッサンス画家の作品に目を向け、赤いウールのスーツやコートを前面に出した。アーデムは、黒をベースカラーに据え、色鮮やかなフラワープリントも上から黒いチュールを重ねてモノクロームなムードにまとめた。次なる可能性はまだ実験段階であることは否めないが、前進への意欲は強く感じられる。そうした中、当初からプリントやドレス主体のスタイルに背を向け、男女の性を超えて共に着られるデザインの服作りに挑むJ.W. アンダーソンは、今シーズンも脱常識に挑戦した。本来つけられるべきファスナーやボタンがなく、背中がぱっくりと開いてしまったワンピースや、四角い布を紐で結び合わせたミニスカートは、ミニマルでありながら肌をかなり露出している。しかしそこは性を突き放すデザインが基本とあって、セクシーな雰囲気は微塵も無い。

londonlondonlondonlondon
写真は左から、柄と並ぶシグネチャーである色を捨てたメアリー・カトランズ。テーラードに挑んだピーター・ピロット。独自の黒の採用を試みたアーデム。今シーズンも難解で不可思議なコンセプトで見るものを引きつけたJ.W. アンダーソン。

 トム・フォードと並び、今シーズンはいったいどんなコレクションを見せるのか注目を集めたのはクリストファー ケインだ。グッチやアレキサンダー マックイーンなどを傘下に収めるフランスの大手コングロマリット、PPR(社名をケリングに変更予定)の傘下に加わって初めてのシーズンとあって、よりゴージャスになるのか、あるいは自由奔放なアイディアをさらに前進させるのか、期待が寄せられた。結果は、この上なくクリストファー ケインらしいコレクション。人間の脳のスキャン画像を刺繍したシリーズを除き、これといった新しい挑戦は見られない、ある意味これまでのデザインの集大成的な色柄、ディテール使いによる新作が並んだ。強いて言えばボックスシルエットのブルゾンなどに見られるオーバーサイズのシルエットが新しい。コマーシャルを意識した安全線に走ったというのがショーを見ての感想だった。もっともその後、パリで開かれた展示会で一着一着を手にすると、そこにはものすごく手の込んだ素材作りが盛り込まれていた。ニードルパンチで柄状に上から毛を叩きつけたような立体的な迷彩は、実は荒いウール地やチュールの下に柄となる毛を置いて吸い込み表面に浮き上がらせたもの。花を象ったきじの羽根やトップの一面を覆うガチョウの羽根は一本一本丁寧に糊づけされている。インターナショナルなラグジュリーブランドとして一歩を踏み出したクリストファーの次なる挑戦に期待したい。

londonlondonlondonlondon
オーバーサイズのシルエットで見せたクリストファー ケイン。出身地であるスコットランドのキルトの要素がさり気なく盛り込まれている。ガーリーなムードが見え隠れするのも、いつもながらこのデザイナーの特徴の一つ。


Ads by Glam

show search
Notice
media partner
fashionjp.net SOEN ONLINE room service roomsLINK
Glam