yoshiyuki miyamae

宮前義之(イッセイ ミヤケ)「一枚の布の中に考え方を入れる」。 31 MAY. 2012

PHOTO MASATOSHI UENAKA (BACK STAGE), TOHRU YUASA (B.P.B)(PORTRAIT)
TEXT HIGH FASHION

去る、3月4日にパリで行われたイッセイ ミヤケ2012-13秋冬コレクションのテーマは「Mineral Miracle(ミネラル・ミラクル)」。ミネラル(鉱物)の中から宝石が磨き出されるように、一枚の布から美しい色彩とフォルムが現れるというコンセプトだ。宝石の結晶を思わせるような三角形や平行四辺形の切片をさまざまな素材で表現したショーも好評だったが、とりわけ冒頭で行った意表をついたプレゼンテーションに話題は集中した。素材の開発を得意とするイッセイ ミヤケの面目躍如で、パリでも評価が高かったコレクションを終えた、就任2シーズン目のデザイナー宮前義之にインタビューした。

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上は、パリのショーの冒頭で行われたスチームアイロンを使ったプレゼンテーション。トップの写真は、2012-13秋冬イッセイ ミヤケの展示会場(東京)での宮前義之。

ショーの前のデモンストレーションのようなプレゼンテーションは、どういう経緯でやることになったのですか?

宮前義之(以下M)実は、最初のプランではあのプレゼンテーションはなかったのです。2番目に登場するライトグレーのウールストレッチのシリーズーーミネラル・ストレッチと呼びますーーが最初に登場する予定でした。
イッセイ ミヤケではこれまでA-POCや、プリーツで独自のストレッチを開発してきましたので、今回も、その技術を使って、日常の中で気楽に着られるもので、絶対に他ではできないものを作りたいというのが出発点でした。
一見ニットに見えるけれど、ニットではないストレッチ。もしくは、プリーツのようでプリーツではないストレッチ、というように、自分たちがやってきたことをもう一歩前に進めていくことに挑戦しました。パターンは直線なのに、柄を曲線にすると、曲線的なふくらみができたり、カッティングでは出せない表現ができるのです。
この新しさをどうやって伝えられるか考えていくうちに、プロセスを見せるというアイディアが浮かんだのです。

画期的な見せ方でしたね。

M   究極にミニマルにしたいと思って、布は真四角に、120センチの正方形に全部統一しました。赤いものだけはロングドレスにしたかったので縦が長く、全部で6種類の生地を作りました。それぞれ一枚の四角い布が、スチームをあてると、ストレッチの部分だけが一瞬で縮んで、全く違うフォルムのドレスになるというのは、視覚的にもおもしろいのではと思ったのです。これを見せると、このあとに続くミネラル・ストレッチも、なるほど、と見ていただけるのでは。あ、ニットじゃないのか、と、見ている人に投げかけるというか。

実際には、スチームアイロンではなくて、工場で制作しますよね?

M  もちろん。実際には、いろんな仕上げがありますが、身近で誰でもが知っているスチームアイロンを使うと、わかりやすいし、そこからいろいろ想像していただこうと。

あのデモンストレーションをやった人たちは?

M  イッセイ ミヤケのパタンナーと企画スタッフです。

そして、プロセスを見せたことで、観客とぐっと距離が近づきましたね。

M  はい、そうですね。そういう意味でもいい反響があったと思っています。周りからも、おもしろいと言ってもらえたし。そういう意味ではよかったなと。たいていの人は、コレクション見る時ってネットでパッパッパってクリックして、一瞬じゃないですか。半年間かけて作ってきた服も、一瞬にして目の前を流れていってしまう。どうやって見る人の目を止めさせるか、やっぱりこちらも近づいていかないといけないのかなあ、と。

実際にはハイテクノロジーの世界で生まれるわけだけれども、それをスチームアイロンという、アナログで身近なものを媒介させたことが、おもしろいし、それにあのスチームの音もサンプリングしてバックミュージックに使いましたよね?

M  音楽はオープンリールの機械で音を録音し、音楽を創る「オープンリールアンサンブル」っていうメンバーで、彼ら、まだすごく若いんですよ。カメラ席の隣の頭上にDJブースを作って、スチームアイロンのシューっていう音がショーの始まる合図だったんです。リハーサルでは熱くなりすぎてアイロンのブレーカーが落ちてうまくいきませんでした。彼らは東京でアイロンの音を録音していけばすむものを、生の音にこだわりたいということで。ミネラルだから、石の音も入れようと。石はパリにあるものを使えばいいと思っていたら、なんとパリは、石畳はあるけど石がどこにも落ちていない。イメージは完全に出来上がっていたから、大騒ぎになりしました(笑)。石は運良くパリオフィスの近くに落ちていたので、使うことが出来ました。ショーの中では、ミシンの音とか、実際に服を作っている工場の織機の音を録音したりとか、いろんなアイディアで構成されました。アナログと、テクノロジーと。イッセイ ミヤケは元々その両方の部分があるのですが、今シーズンは特にそういう思いが強かったので、彼らとの仕事がピタッと合いました。

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パリコレのバックステージで。モデルに全ルックを着せてショーの順序を確認する。

音楽もそうだし、あのデモンストレーションもそうだし、それから今回、ストレッチヤーンの糸端が、わざとほつれたようにそのままになっていて、それが、デザインの一部だったのですが、そこがおもしろいと言ったら、パリのスタッフの人が、「こういう切りっぱなしや裁ちっぱなしが好きなのは日本人とベルギー人ね。フランス人はあまり好きじゃない」と言ったという話を、伺いましたよね。これはおもしろいなあと思いました。確かにこれまで、イッセイ ミヤケの服からは、未完成という要素はほとんど感じなくて、常に完成され、きれいに仕上がっている、そういう意味でハイテクな印象があったんです。なので、あの糸もスチームアイロンも珍しかった。そういう意味でも今回は少し変化したのではないでしょうか。なにか、イッセイ ミヤケのパリコレに、東京を持ち込んだ、という気がしました。宮前さんが呼吸してきた東京のファッションの空気が、こういう形で出ていて、とてもおもしろいなと。
パリのスタッフの人たちの反応はいかがだったんでしょうか。

M  最初は、びっくりされましたね。

イッセイ ミヤケがこんなアイロン一挺でできてしまうと思われるのはどうなの?なんて意見はありませんでしたか?

M  いやいや。ずっとイッセイ ミヤケを見て、知っているスタッフはその辺は良くわかっているので。またすごいこと始めたねって感じで。いつも一ヶ月前くらいに来日する彼らの前で、全ての構想をプレゼンするのですが、その時に、布が縮む様子を見てエキサイトしているのは感じましたね。

前回と比べて、取り組みの上で変化はありましたか?

M  一回目というのは、なにか新しい空気を作らなくちゃ、と考えましたね。そういう意味で、ムードとか、印象とかを重視し、形も抽象的だったと思います。今回、二回目というのは、一回目とはまた違う意味を持っていて、素材とか、テクノロジーとか、伝統とか、人の手仕事とか、そういうイッセイ ミヤケにしかできないモノ作りに、戻ったといえるかもしれません。

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左と右:一見パッチワークのように見えるが、これすべて一枚の布として仕上げられている。右のニットのようなのは、毛糸の刺繍。中はワッフルのような構造の地厚な素材。

秋冬物だということも手伝って、より素材の冒険ができたのでは。

M  そうです。僕自身、学生時代から素材がすごく好きで、本当に今回は楽しかったです。時間がなくてスケジュール的には辛かったのですが。尾州に行ってウールの可能性に触れたり、一枚のジャージ素材に極端に異なる太さの糸を何種か刺繍したり。ダイヤ柄のパッチワークに見えるものは、継ぎ接ぎがなくて、一枚つづきのものです。部分的に素材をシルクやモヘアなどにし、織り柄の違いで表現しています。しっかりしたウール素材が肩部分の柄になるようにしたりと機能も考えました。

その辺はA-POCを継承していますね。

M  考え方はそうですね。一枚の布の中に、考え方を入れるという意味で。一体成型しているわけではないのですが、生地の中である程度服を完成させる。

そしてとても軽い。

M  普通だと強度が必要な箇所には芯を張って生地を堅くしたりするのですが。布を作る前にある程度服を完成させる。これは、相当技術がないとできないことで、イッセイ ミヤケの強みと言えると思います。たとえば、肘のところを柔らかくするためにシルクにしたり、ウエストのところも、と個々にテクスチャーを検証したのですが、そこでは技術者と、テキスタイルデザイナーと、服を考える自分と、そこに工場さんも一緒になり。そういう意味ではすごくおもしろかったですね。

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