ISABEL MARANT

東京に誕生したイザベル マランの「イエローハウス」。 23 AUG. 2012

PHOTO TOHRU YUASA (B.P.B.), MASATOSHI UENAKA (RUNWAY)
TEXT MAYA NAGO

 黄色いファサードの古い家が、東京、表参道から覗いている。街の記憶を一変してしまうようなピカピカとした建物とは対照的に、記憶をたぐり寄せると、確かにずっと前からそこにあった一軒家。そこが、恐らく日本の多くの女性たちが「待ちに待った」、イザベル マランの日本初の路面店として生まれ変わった。
 この路面店オープンに合わせて来日したイザベル・マランは、なんとこれが10余年ぶりの来日なのだと微笑んだ。きれいに日焼けした健康的な肌が、ショートパンツから覗いている。無造作で自然体、ヘルシー、そして、どこかアンドロジナスな雰囲気の中に、不思議な女性らしさも秘めている。デザイナーにして、ブランドにとっての理想的なモデル、彼女の存在感こそ、ファンタジーとリアリティが絶妙に交差するイザベル マランの服の魅力だ。

ISABEL MARANT
上の写真は、イザベル・マラン。トップは、8月2日に誕生した路面店のファサード。鮮やかな黄色が映える。

独立されて、自身のジュエリーブランドを立ち上げ、そして今、東京に初の路面店ができた。あなたの20年以上に渡るキャリアにおいて、どんな風に情熱を持ち続けてきたのですか?

イザベル・マラン(以下 マラン)20年以上! でも実は、年数は数えないようにしているの(笑)。20歳のときにジュエリーブランドからスタートして、少しずつ変化しながら、今のようになっていった。悩みながらね。今でも常にもがいているわ。やり続けること、新しい何かを提案し続けることは決して容易なことではないから、壁にもぶつかる。大変な挑戦よ。業界を知れば知るほど、人々のニーズもより分かってしまうから、それに振り回されないように自分を保つのは大変なこと。でも、自分の仕事に情熱を持ち、まるで家族のような会社をつくることができたことは、私にとって、とても大きな意味を持つの。信頼関係があるからこそ、「もう無理、あとは頼んだわ」って言えるでしょ(笑)? 自分の目の届く範囲で少しずつ少しずつ育ててきたの、無謀なことはせず、とても慎重にね。だからこそ、強いチームが作れたし、今は昔よりも随分リラックスして仕事ができるようになったわ。

自分自身に対して正直でいること、自然でいること。つまり、あなたと、あなたが作り出すものに常に矛盾がない、ということが重要なのですね?

マラン   その通りよ。自分の芸術、魂に素直になることができなければ、何かを作り、発表することなどできないわ。私がこの仕事を続ける上でもっとも重要なポイントは、常に自分の心に誠実になること、精神が自由であることなの。例えば、マーケットのニーズを汲んでデザインしなければいけないのであれば、私にはこの仕事を続けることができないわ。

とはいえ、あなたはビジネス面においても、とても成功しています。この東京の路面店に続いて、9月にはロサンゼルスにもショップをオープンしますね。

マラン  実際のところ、自分がファッションデザイナーになるなんて、若い頃は考えたこともなかったの。大学の専攻も経済学だったしね。でも小さなときから、自分が何を着たいかは、とてもはっきりしていたわ。両親が選ぶ靴もスカートも大嫌いだった。だから、10代の頃はトムボーイ的な格好ばかりしていたわ。パティ・スミスみたいに顔も隠して、マニッシュでグランジなスタイルよ。母が着古したセーターやシャツを自分でカスタムしたりして着るのが好きだったの。それが次第に、私のスタイルを友人たちが気に入って、服を作ってと頼まれるようになった。高校生の頃よ。それが上手くいってしまって、10代にしてけっこう稼いだわね(笑)。ファッションについての知識など何もなかった。恐らく、ショーやイメージを作ることの重要性を知って感動し、これこそ、自分がやりたいことだと確信したのは、随分と後になってからのことよ。

売れる服を作ること、つまりコマーシャル的な成功と、あなたが先ほどおっしゃっていた自分に対して正直な服、というのは、どのようなバランスで成り立っているのでしょうか?

マラン  そのバランスは考えないわ。なにより、自分が着たいかどうかが最優先。私には本当に、コマーシャル的なストラテジーは全くないの。大学卒業後、スタジオ・ベルソーで服づくりを学んだのだけれど、そこでは毎週月曜日に自分が制作したものを発表するの。学長がそれを見て、こんなふうに言っていたわ。「これが、自分が本当に好きだと思う洋服なのだとしたら、一週間、着続けてみなさい。そうすれば、その服が他者でも着たいと思う服かどうかが分かるから」と。この言葉を今でも時々思い出すわ。自分自身が着たいと心から思えるものでなければ、それは正しいデザインではないし、他者を魅了することはできない。そして、単にウエアラブルであるだけでなく、そこに自分の魂や美意識が息づいていなければいけないわ。

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ショップの敷地に植えられた観葉植物。

私たちは、あなたの服を着るという行為を通じて、イザベル・マランというパーソナリティを体感しているのだと思います。女性的で健康的なセクシーさがありながら、決して他者に媚びていない服。トムボーイやパティ・スミスのスタイルに共感していたあなたの美意識は、どのように形成されていったのでしょう?

マラン  どうなのかしら。とにかく私は子どもの頃から、とても自己主張の強い性格だったの(笑)。自分が好きなもの、好きではないものがとてもはっきりしていた。全てに対して、正直すぎるほど、正直だったと思う。

前述のようなパーソナリティやスタイル以外に、あなたの美意識に圧倒的な影響を与えたアイコンはいますか?

マラン  セルジュ・ゲンズブールは私の創造活動において、今も昔も、変わらずもとても重要な人物よ。彼は自分に誠実で、自身の主張を強く持っていた。自分が信じることには揺るぎない意志を持って発言したし、時にとてもラディカルな方法で自己主張し続けた人。彼はとてもフランス的な家庭で育ったけれど、それとは対照的に多種多様な文化に傾倒し、そこから受けた影響を自身のフランス人としてのルーツと融合させるのに長けていた。そういった部分にとても共感するわ。そして、彼はとてもマスキュリンであると同時に、精神的にはとても女性的な人だったと思う。

それは二面性、という言葉でも表現できるように思います。その二面性は、あなたの服にもショップにも表れていますね。コレクションは、決して女性性を全面にアピールするような服ではないけれどマスキュリンとは違うし、やはり女性的。そしてショップ空間は、当然服を売る場所ではあるけれど、服だけが主役というような空間ではない。アートインスタレーションがあり、服だけでない美を体験できる。人間味や温もりを排した完璧に美しい商業空間に対して、あなたの服にも、ショップ空間にも、どこかアンバランスな美を感じます。

マラン  私がどこか不完全なものに惹かれるのは、きっと、私の二面性から来ているのだと思うわ(笑)。世の中にはこれだけたくさんの服があるからこそ、自分のショップで服だけを前面に押すようなやり方は嫌なの。自分のショップは精神的な空間にしたいと思っているわ。ブランドイメージを強く印象づけるために、どの都市にも同じようなブティックを出すブランドもあるけれど、私はそれより、その土地にあった空間にしたい。自分がどういう人物なのか、あるいは、ブランドのスピリットを、異なる文化を取り入れながら様々な方法で表現したいの。

シーズン毎に変わるアートインスタレーションもその一つですね。

マラン  そうね。服を買ったり着たりする体験に、ファンタジーや夢を付加したいの。この新しい東京を含む私のすべてのショップでは、毎シーズン、古くからの友人であるアーティストにインスタレーションを制作してもらっているの。彼はさまざまな美意識を共有できるし、新しいアイデアを交換し合える大切な存在よ。

10余年ぶりの来日だそうですが、この空間へのこだわりは?

マラン  ベストな立地、空間を探して、ついにぴったりの場所を見つけたのがここなの。とはいえ、実際のところ、昨日初めて来たのよ! それまでは写真やビデオで確認して遠隔操作で作業を進めてきたのだけれど、不思議なことに、昨日ここに着いたとき、まるで昔から知っているような懐かしい気持ちになった。外壁の黄色は、もともとの色をそのまま使ったのよ。だから私たちはこのショップをイエローハウスって呼んでいるわ。もともとの柱などはすべて生かして、柔らかな明かりを取り入れるために、日本の障子を彷彿させるライトを取り付けたの。日本的でありながら、日本的すぎないというのがポイントね。

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左は、ショップのウィンドウにディスプレーされたインスタレーション。エスカルゴを料理するためのプレートを用い、個性的な作品に仕上がっている。右は、淡い光を放つ店内のライティング。

そして、ついにあなたの全体的な世界観を体験できる、フルラインアップのコレクションが並んでいます。ここ数シーズン、イザベル マランというブランドにしては意外性の高い「アメリカーナ」がテーマになっていますね。

マラン  そう、あまりテーマをシーズン毎にがらりと変えるのは好きじゃないの。アメリカをテーマにしたコレクションは、ここ3、4シーズン続けているテーマ。正直、アメリカ文化をテーマにするのは意図的に避けていたところがあったのだけれど、昔からアメリカンスポーツウエアが大好きなの。スケートボードにサーフィン、野球といったスポーツからスタートして、今回はカウガールを描いたわ。ただし、コレクション全体でシーズンテーマを高らかに謳うのは好きじゃない。子どもっぽく思えるから。頭からつま先まで、カウガールを負うのは格好良いとは言えないでしょう? その反面、ストーリー性はとても重要視しているわ。

カウガールというと、とてもストレートなアメリカンカルチャーに思えますが、服へのアウトプットとしては、やはり、とてもあなたらしいコレクションにまとまっていますね。

マラン  今回のコレクションのきっかけになったのは、15歳の頃にもらった一冊のカウガールについての本なの。真剣にロデオに挑み、ファッションではない本気のカウボーイファッションを身に纏って、女性のバウンダリーを押し広げようとした人たちが描かれている。アメリカンウーマンの常識をいい意味で覆した女性たちよ。タフだけれど、とても女性的でもある。コレクションを通じて、彼女たちの物語を紡ぎたかったの。もちろん、フランス人である私のフィルターを通じてね。

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2012-'13秋冬パリ・コレクションで発表したイザベル マランのランウェーより。

そう、あなたのコレクションには様々な文化からの影響が投影されていますが、同時に、とてもフランス的でもある。そのような感性はどこから生まれるのでしょうか。

マラン  文化とは、何にも変え難いとても豊かなものよ。そのルーツはとても深くて強い。私はそういったものに惹かれるの。クラフトや人の手の温もりが感じられるものに感動し、尊敬を抱く。異なる文化、レリジョンにいつも興味があり、それを自分自身の文化に取り入れて、独自の解釈に落とし込むことが好きよ。フランス的であることを言葉で定義するのはとても難しいけれど、いくつかヒントを挙げるとしたら、エレガントで能動的、自然体、そして自由といったところかしら。イヴ・サンローランやシャネル、ディオールなどが象徴するように、フランスはハイファッションの国だけれど、若い頃は、そういったものに違和感を抱いていた。若い頃は皆そうであるように、美しく着飾った母に私も反発したわ。けれど大人になって分かるのは、やはり私はフランス人であり、そのアイデンティティを通じて物事を見ているということね。

では最後に、もしファッションに何か特別な力があるとすれば、何だと思いますか?

マラン  心を開くことの楽しさを教えてくれるものかしら。ファッションの美を通じて、異なる世界に目を向け、探求することができる。同時に、自己表現ツールでもあるわね。誰に強制されることも、強いられることもない。他の表現ではできないことを試すことのできる、バリアのない表現手段だと思う。他者がどう思おうかなんて、関係ないわ! 大切なのは、自分が心身ともに快適であるかどうか。自分が着るもの、そして自分自身に自信を持つことで、他者はあなたを魅力的だと感じるはず。それが私の持論よ。

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上段左は、入口に飾られたインスタレーション。右は、ファサード。一階がショールームで、二階がショップ。下段左は、ショップの内観。1970年代の木造家屋をリノベートし、建物の梁をそのまま生かした。右は、ラックに掛けられた洋服。

イザベル マラン
東京都渋谷区神宮前4-3-16
11時〜20時営業 不定休
tel. 03-5772-0412
www.isabelmarant.com

ISABEL MARANT

イザベル・マラン
1967年生れ。フランス人の父、ドイツ人の母、そしてカリブ海アンティル諸島出身の義母の下、国際色豊かに育つ。幼少期からインド、アフリカ、マグレブへ旅行し、影響を受ける。'87年にパリのステュディオ・ベルソーを卒業したのち、ミッシェル クランやヨーク&コール、アートディレクターのマーク・アスコリの下で技術と審美眼を磨く。'89年にオリジナルデザインのアクセサリーを発表し、クロード・モンタナなどのコレクションに協力。'90年、ニットとジャージーのブランド、トゥウェンを開始。'94年より現ブランド名に変更し、'95春夏、パリ・コレクションにデビュー。自身が「メルティングモード」と形容する無国籍なデザインで人気を博す。'98年には、初のショップをパリにオープン。2000年にセカンドラインのエトワールをスタートさせた。




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