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Tomohiro Maekawa

Interview / Stage Tomohiro Maekawa

能と狂言がモチーフ。『奇ッ怪 其ノ弐』を創る前川知大。

2011.07.07 update | STAGE

ステージ・オン・ライン
#07 前川知大
渡辺美和子(演劇ライター)=文
text:Miwako watanabe
photograph:Tohru Yuasa
(B.P.B.)

写真上は、劇作家・演出家の前川知大。

前川ワールドと言っていいだろう。劇団「イキウメ」を主宰する劇作家・演出家、前川知大の創る世界は、日常生活の裏側に潜む怪異や恐怖を巧みなストーリーや演出で描き、比類ない魅力に満ちている。たとえば代表作『散歩する侵略者』は、親しい家族や友人の身体がいつの間にか地球侵略を目論む宇宙人にのっとられていた、というお話。家族が姿形はそのままで宇宙人に成りかわっていたと気づいたら、妻は夫はどうするのか......。怖さのなかに一抹の叙情も漂い、3演目となる2011年の上演では大震災以降の状況も投影された演出で、見事だった。
このようにある種思考実験的な作風ではあるが、前川のすごいのは、実験の生硬さを感じさせず、必ず「観ておもしろい」ところ。ここ何年か、鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞、芸術選奨新人賞、読売演劇大賞など数々の演劇賞を受賞しているのも当然だろう。

『奇ッ怪 其ノ弐』は能と狂言がモチーフ

そんな前川が、世田谷パブリックシアター制作で『奇ッ怪』を作・演出したのが2009年。小泉八雲の「怪談」から短編を数本選び「語り物」の手法で再構成した作品で、語り手と登場人物が物語と現実を自由に往還。謎に満ちたスリリングな世界が展開された。
それから2年。『奇ッ怪』第2弾が上演される。今回は世田谷パブリックシアター芸術監督・野村萬斎企画の「現代能楽集」シリーズとドッキングし、現代能楽集Ⅳ『奇ッ怪 其ノ弐』として「能」と「狂言」から想を得た物語を展開するという。前回の『奇ッ怪』では、イキウメ公演とは一味違うよりディープな和物テイストを見せてくれた前川。『其ノ弐』ではどんな世界を創ってくれるのだろうか。

前川知大(以下M)
前から狂言がシチュエーションコメディとしてすごいおもしろいな、一度やりたいなというのがあって。それなら狂言だけより能も加わった方が広がりが出るのではないか、と考えていたところ『現代能楽集』という企画のお話しをいただきました。それと、最初の『奇ッ怪』に出演した3人、仲村トオルさん、池田成志さん、小松和重さんの3人でまたなにかやれたらという話があり、じゃぁ能と狂言の中から奇っ怪なものを取り出して其の弐をやろうと。今回もう1人、山内圭哉さんが加わりますが、最初からいたようにしっくりなじんでますよね。小泉八雲をやったときに、オリジナルでやっていくこととは違うおもしろさを感じましたし、日本独特の怖さというかものの見方のおもしろさは、自分のなかですごく、来た! っていう感じがあります。
だいたいの構想としては......能には恨みを持った死者が出てきますね。で、その死者の恨みの言葉を代弁する語り手がいて、その言葉を聞く聞き手がいて、聞き手がそれを聞いてあげることによって死者が成仏していく、そういう構造があると思います。で、その形でずっと上演され、上演のたびに死者の言葉が再生され、鎮魂されてきた。そこに意味があると感じてます。だからまず死者の言葉を代弁する存在、語り手を出して、語り手が語っていくなかでその恨みを鎮めてあげる。で、それがいったい何だったのか、誰が何を鎮魂したのかっていうことがだんだんわかってきて、大きな物語になっていく、というような感じにできたらと思ってます。狂言に関しては、夢幻能の構造をそのまま使うつもりなので、逆にいちばん外の語りの枠組みに使ったらいいじゃないかと考えています。うまくできたら、なんですけど。

原点は水木しげるにあり

前川の作品はSF的と評されることが多い。たしかに前川の世界には、ある仮説のもとに論理を展開し世界を創っていくというSF的なつくりが多く、なによりアーサー・C・クラークやスタージョンやフィリップ・K・ディックを思わせるSFテイストがあるのだ。ところが本人はSFの人ではないという。

M:
ぼくはよくSF的だと言われ、たしかに好きですけど、子どものころからSFを読みふけっていたわけではない(笑)。演劇をはじめたとき、自分はオカルトとホラーだと思っていたんですよ。SF的だと言われはじめて、そっちの方がわかりやすいのかなと、逆に使わせてもらったという感じです。SFは大人になってからで、20歳前後になってからアーサー・C・クラークとかを読みはじめた。読んだらおもしろかったですけどね。実は子どものころは本をほとんど読まなくて、ゲームとかマンガばかり。映画はすごく好きでしたが、活字にはあまり手を出さなかったんですよ。
原点はというと、『水木しげる』になっちゃうかもしれませんね。子どものころから妖怪とかお化けとか奇っ怪なものが大好きでした。父親が買った水木しげるさんの『妖怪大百科』という本が日本編と世界編と、なぜか家にドーンとあって、それを幼稚園、小学校と、ボロボロになるまで読んでました。でもそういうのって、大人になるにつれ、いったん離れるじゃないですか。で、芝居をはじめたときに、自分がいちばん好きなのはなんだろう? と考え、思い出したように水木しげる的なものに戻りました。あっ!これが好きだと。好きだし、調べなくても、妖怪とかお化けとか怖いものに関しては知っている、と。だったらそれを題材にしようというので、<イキウメ>って名前にりました。"生きたまま違う世界に超えてみよう"という意味で。
水木しげるの妖怪って日常の裏にべったりくっついてる感じがあるじゃないですか。観ている人がそれを感じられたら、すごくおもしろいと思うんですね。妖怪というのは心理学的にいえば自分自身の不安だったり恐怖が形を変えたものだと言えるけど、そういうものを描きたいし、そこに新しい説明というか見方を示せたらなと思っているわけです。その説明は別に正解でなくても屁理屈でもよくて、でもどこかで現実とからまっていったらおもしろくて怖い。だからSF的な設定も、水木しげる的な薄暗い物陰に潜んでいる何かでもいっしょなんです。オカルト的なときもあるし妄想もあるし。ぼく的には、そこはぜんぜん区別してません。

原点は水木しげるとは......ますます『奇ッ怪 其ノ参』が観たくなる。この色濃いメンバーが水木しげるの世界に並んだら、さぞかしおもしろいことだろう。

前川ワールドができるまで

水木しげる、妖怪、お化け......前川が小さいころに心惹かれた「奇っ怪」なものは、大人になるにつれ魔術、密教と分野が広がり、劇団誕生につながる。しかし創設は前川が29歳の2003年で、演劇の戯曲を書きはじめたのがその数年前だから、演劇との出会いは決して早いほうではない。それまでの前川の経歴は、高校中退、料理人、大検、大学進学と、かなりユニークだ。
新潟県柏崎市に生まれ育ち、県立の進学校に進学するが、「おもしろくない」と高校を2年で中退。上京し、早稲田大学に進学していた兄の住まいに転がり込み、料理人に。高校時代アルバイトでやってから料理の世界にはまり、当時は本気で店を出すつもりだった。そのうち兄と兄の友人たちに刺激を受けて猛然と本を読みだし、勉強をはじめる。興味があることに関しては自主的に本を読んだり、美術館に行きレポートにまとめ、積極的に学んだという。その文章化、アウトプットの仕方が会話形式だったのが、後の創作活動、自主映画のシナリオ、演劇の戯曲につながる。
やがて大検に合格して大学受験の資格を得、東洋大学の哲学科に進学。進学先を選んだ理由は、創始者の井上円了が妖怪博士だったから。大学時代は自主映画を創っていたが、その映画に出てもらった俳優たちが劇研のメンバーで、彼らが卒業後結成した劇団に戯曲を提供したのが、演劇との出会いだ。そしてイキウメが誕生するのだが、観るより先にはじめてしまったという芝居。そこで前川は市場調査をはじめた。自分たちと同じサイズでやっているような劇団の公演を、好きとか嫌いではなく、調査のために観はじめたのだ。おもしろいことやってると思えばそのアイデアをメモり、こうしたらもっとおもしろいシチュエーションが創れるなと自身のアイデアをまたメモる。そのうち芝居っておもしろい、すごいと思いだす。つまり芝居が好きになる。

M:
芝居ってこんなに自由で、おもしろいんだと思ったのは、まずしりあがり寿さんの『真夜中の弥次さん喜多さん』を天野天街さんが舞台化した作品でした。2人で旅をしているのが、夢なのか現実なのか妄想なのか、進行につれどんどんわからなくなる。ある種の幻覚が舞台上にかなりリアルに、そのまま出てくるんです。舞台上で起こっていることの不思議さ、その世界の作り込みの半端じゃないところに、ほんとうにびっくりしました。改修する前のシアターグリーンで、なんかイリュージョンを観てるみたいでした。それがいちばん強烈だったけど、それ以外にも、たとえば同世代でそのときすでに注目されていた蓬莱竜太さんとかKAKUTAの桑原さんとかを観たときも、あぁ芝居っておもしろいし、すごいなと思いました。
そして、いま自分が表現としてやるんだったら、自主映画よりも、逆に制限なくできるんだ、ってことが、だんだんわかってきたんですね、上演形態の面でも。自主映画の場合、最初は自分たちでホールなどを借りて自主上演会というのををやるんですけど、入場料なし、とっても300円とか500円がふつうなんです。でも演劇の場合は旗揚げしたてでも2000円ぐらいは取りますよね。演劇の方が、自分たちなりの予算と技術でたぶん、映画よりもっと完成度の高いものを創れるんだと思いました。

かくていまに至る前川の快進撃が続き、我々はリアルな日常描写のすぐ隣に不思議が同居する前川ワールドを味わうことができるのだ。最後に水木しげるの『妖怪大百科』を通じて、前川をこの世界に導いたといえる、父親のことを聞いてみた。このお父さん、映画、とくにアメリカのニューシネマが好きで、前川の映画好きにも影響を与えている。

M:
父は庭師です。前川造園です(笑)、実家は。新潟県の柏崎で、いまはそうでもないけど、ぼくが小学校ぐらいのときまでは、すごく雪が降ったんですよ。で雪が降ると仕事ができないから、冬は家に籠もるしかない。造園の年内最後の仕事は門松をつくることで、ぼくも手伝って年末に門松を山のようにつくって、それを売って。門松って高いから、それでワンシーズンぐらいは食えるんですね。で1月2月は、レンタルビデオで映画を観たり、あと油絵を描いたり、ギターを弾いたりと、どうしようもない生活をしていたんですよ。そういう父親の血をぼくも受け継いでいるのかもしれません。父親の仕事は好きでよく見てたし、手伝いもよくしてたんです。その父はぼくがちゃんと創作をはじめる前に、亡くなりました。ぼくの創ったもの、見せたかったですね。すごく喜んでくれたと思います。

Tomohiro Maekawa
1974年生れ。劇作家、演出家。2003年結成の劇団イキウメ主宰。SF的な仕掛けで、見近な生活と隣り合わせの不思議な世界を描く独自の作風が高い評価を得ている。『表と裏と、その向こう』『散歩する侵略者』『関数ドミノ』ほか、劇団以外にも『煙の先』『抜け穴の会議室』『狭き門より入れ』など多数の作品を書き下ろし、演出を手がけている。'07年に小説『散歩する侵略者』を発表。2009年より、鶴屋南北戯曲賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨新人賞、読売演劇大賞優秀作品賞、読売演劇大賞優秀演出家賞など多数受賞。

Tomohiro Maekawa 世田谷パブリックシアター芸術監督 野村萬斎監修
現代能楽集Ⅳ「奇ッ怪 其ノ弐」
2011年8月19日(金)〜9月1日(木)
世田谷パブリックシアター(東京都世田谷区太子堂4-1-1 キャロットタワー3F)
作・演出:前川知大 / 出演:仲村トオル、池田成志、小松和重、山内圭哉ほか。
お問合せは、世田谷パブリックシアターチケットセンター tel.03-5432-1515へ。
setagaya-pt.jp

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