Photographs:Norifumi Fukuda(B.P.B.)
上は、4月に、深川番所ギャラリーで開かれたイシカワチサト作品展「異装」で展示されたシャツ。"男女兼用" 2007
「渦中」「螺旋」「拘束」。京都在住の服作家、イシカワチサトは、2007年来、こんな気をそそられるタイトルで作品としての"服"を発表してきた。今年4月には、東京で初めての個展「異装」が、深川番所ギャラリーにて開催。精緻に仕立てられたシンプルな服。が、よく見ると、ジーンズは裾で輪のようにつながっているし、シャツは、前も後ろも前だったり、前も後ろも後ろだったり、2枚がつながったシャツもある。一見服のような顔をした「着られない服」たち。展覧会のために上京したイシカワチサトに話を聞きながら、彼女が産み落したこれら独特の存在に、光を当ててみたい。
- ——
- 展覧会の形で発表するのは、何回目くらいになりますか?
- イシカワチサト(以下I)
- 今のような作品で発表を始めたのは2007年からです。グループ展と個展合わせて7回くらいでしょうか。
- ——
- 高校から服飾科に入るということは、イシカワさんは、こどもの頃から服が相当お好きだったんですか。
- I:
- もともとこの学校のデザイン科に入りたくて、見学に行って、服飾科を知ったんです。服飾だと、絵も描けるし、立体で作品も作れるし、染色の作業もできるという幅の広さに魅力を感じて、入ったんです。とにかく手でものを作るのが好きだったのです。
- ——
- どんなものを作っていたのですか?
- I:
- 小さい頃だと、編み物や工作。木工も好きでしたし、ハンダ付けも好き。机に向かってする勉強じゃなくて、手を動かせるような勉強がしたいと思ってそっちの方向に。
- ——
- では、いわゆるファッションが好きというのとは。
- I:
- 違いましたね。服に対してものすごく興味があるタイプではなかった。でもその高校がすごく自由で、服といっても、形にとらわれずに、自分の表現として作っていいという、表現に重きを置いたところだったので、やっていけたのです。ただし、パターンや縫製の技術は思ったほど身に付かなかったので、専門学校に行って基礎を学びたいと先生に言ったら「あなたの性格は専門学校には向いていないから大学にしなさい」と言われたんです。みんなが同じ方向に突き進んでいくところに入ったら、きっと「そっち向いてていいのか」みたいなこと言い出すからだそうです(笑)。いろんな大学がありましたが、アート作品的なファッションでなく、きちんと技術を教えてくれるところに行こうと思って、神戸芸工大にしたんです。高校の3年間で好きにやってきましたから、大学では技術に基づいてものを作ることがやりたいなと。でも、入ってみると、大学という環境で技術を身につけるのは、授業時間に制限があり、なかなか思ったようには行かない。パターンに関する疑問をいっぱい溜め込んでいた時に、4年で野口正孝先生というかたに指導していただき、私の単純で本質的な疑問が一挙に解決したのです。同時に、なんとなく将来はパターンナー,と思っていたのが、表現者になり、作品として物を作りたいという方向に気持ちが動いて行ったのです。形を作って行くのがどんどん楽しくなりました。
- ——
- あなたは、立体裁断のように、ボディに布を当てて造形していくよりは、パターンで作ることに興味を持ったのですね。
- I:
- そうですね。平面で自分が想像したものがいかに立体になって行くかということの方に、おもしろさを感じますね。パターンをひきながらデザインを決めて行く。デザイン画を描くのが苦痛なんです。八頭身の人間のバランスも、私の中では違和感があったので。ファッションの中での当たり前、デザイン画の当たり前が、いちいち気になって。なんでそうじゃなきゃいけないのか、八頭身みたいな人がいるわけではないのに、よく見せるためだけにその絵を描く必要性があるのか、とか、すごく考えてしまって。結局作るものは着る人のサイズで作られるのに、このずれはなんだろう、みたいな感じで。何に向かって絵を描いているのかもわからないし、何に向かってものを作っているのかもわからない。
- ——
- その不当さへの怒りがあなたの原動力なのかもしれませんね。でも、あなたの中でいいと思う形というのもまたあるんですよね。それはどういう形をしているのでしょう?
- I:
- パターンをひいて行くと、このラインがいちばん美しいというのが大体決まって来るのです。それは、人間のからだがもともと持っている良さというか、美しさで、それが服を通して、型紙のラインとして出て来るのです。
- ——
- これまで洋服というものに感動したことはありますか?それはどういうものでしたか?誰かの作品でもいいし、映画の中の服でもいいし。
- I:
- いろいろあるんですけど、子供が楽しいものを見て瞬間的に楽しいと思うような、直感的で、単純におもしろいものが好きですね。舞台衣装だったり、デザイナーがアート作品として出しているものだったり。
- ——
- 具体的に何か挙げていただけますか
- I:
- 高校3年の時に、神戸のファッション美術館で、『Air Wear』という展覧会があり、そこで、つながった服など見たことのない形を見て、服って、ただ着るとか、日常とかではなく、見せたり、表現するものとして存在できるんだと、すごく解放されたんです。もっと自由に考えていいんだって。日比野こずえさんの作品もありましたね。
- ——
- そして、最初にそういう作品を発表したのが、2007年なのですね。
今回「異装」というタイトルにしたのは?
- I:
- 規定に外れたことをテーマにしたかったのです。普通と思っているものから外れた服を考えていくうちに、着られない服、というテーマが出てきました。機能的に着られないだけじゃなく、着ないで放置されている服、サイズの合わない服、趣味の合わない服、といろんな「着れない」をみんなが考えるきっかけになれば,とも思ったりしました。
- ——
- シャツ、トレンチ、ジーンズなど、わかりやすいスタンダードなアイテムを使っていますね。
- I:
- いろいろやってみて、結局、とっかかりやすい部分がどこかにないと、人って思考が止まってしまうんです。見て、わからない、と思うとそこで止まる。わからないで終わってほしくはなかったんです。ああ、なるほど、と受け止めてもらいたかったのです。
着られないから服じゃないと言う人がいるかもしれませんが、シャツだと思うから着られない。でも、これをシャツとして着ろとはだれも言ってない。シャツじゃない着方で身にまとうことができれば、それは服と言えるのではないでしょうか。そういう発想の転換ができれば、いろんなものが服になり得る。こうあるべきという固定概念に縛られていると想像もつかないけれど、実際にまとってみると、ああ、これも服って言えるねと、それくらい柔軟に考えられるようになったら、もっとおもしろい服が出て来るんじゃないかなあと考えています。
- ——
- ご自身をどういう存在だと思いますか?
- I:
- 服は作っているんですけど、デザイナーというよりは作家でしょうか。なにかいい言葉があればと思いますが、アーティストと言われると、どこがアートなのかと思う。アーティストほど自分を押し通す強さもなければ、デザイナーというほど、売ることを考えているわけでもなく、服を作っているけれど、果たして?
- ——
- では、ファッションという言葉は?
- I:
- もともとしっくり来ない単語です。周りのファッションを志す人たちの見ている方向と、明らかに自分は違う感じがずっとしていたので。デザイナー的な派手さとか、華やかさを求めているわけでもなく、人にこういうものを提供したいという思いがあるわけでもなく...。
- ——
- ファッションデザイナーの仕事に関心を持ったことはない?
- I:
- 服が好きというより、その人の考え方がおもしろいと思うことはあります。川久保玲さんのやっていることの方法論を見ると、ほんとに、他の人にはまねできないし、覚悟というか、気持ちの持って行き方を見ると、そこら辺にいる中途半端な人たちに、もうちょっと見習って、ものを作ることを考えれば、そんなものは出て来ないはずだ、と、勝手に心の中で言ったりしています。だからといって、川久保さんが作る服を自分が着たいという感覚はないのですが、作っている人間として、素晴らしいと思うのです。他は、デザイナーより,画家のマグリットとか、エッシャーとか、ああいう人間の感覚を揺さぶるような、当たり前と思っていることを裏切ってくれる人の作品に興味があります。
- ——
- まだしばらくはこのラインで追求していくんですね?
- I:
- 今回、自分で疑問に思ってたことがある程度解決できたので、また違うものを作るかもしれないです。着るということに対する考えも最初はあんまりわかりませんでしたが、回を重ねるごとに、人が見てどういう反応をするか、とか、人の見方が少しずつわかってきましたので。
上はすべてイシカワチサトの作品。ユニークなタイトルが、タグのように各作品にぶらさげられている。
- 01."螺旋" 2007
- 02."三位一体" 2007
- 03."二面性" 2010
- 04."O 脚" 2007
- 05.2011年4月に深川番所ギャラリーで行われた「異装」の展示風景。古い民家を改造した雰囲気のある空間の中で、イシカワチサトの作品は、静かな違和感をかもしていた。左の柱にも特別に製作したシャツを着せて。
- 06."底なし" 2007
- 07."渦中" 2007
- 08.型紙も展示。閲覧自由。真ん中が服を着た柱。
- 09."三叉" 2009
- 10."循環" 2007
- 11."拘束" 2009
イシカワチサト(上の写真)
1980年京都生まれ。京都市立銅駝美術工芸高等学校服飾科を経て、2003年、神戸芸術工科大学芸術工学部工業デザイン学科ファッションデザインコースを卒業し 、関西を中心に活動。洋服を型紙の段階で解体し、独自のルールによって再構築した、服のようでありながら '着る' という機能性から決別した独特な作品を2007年以来製作・発表し続けている。第1回ワコルネアワード ナミナミのたくらみ賞受賞(2005年)。京都のギャラリー西利(2004年)、llenoギャラリー(2009年)で個展。2006、2007年には、東京のスパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル(SICF)に参加。
深川番所ギャラリー
隅田川にほど近い古民家の2階を改造した清澄白河にあるギャラリー。建築、内装の仕事も請け負いつつ、企画性の高い展覧会を開催。取り扱い作家には、イシカワチサトの他,木村裕、曽我卓史、藤井龍徳などがいる。
東京都江東区常盤1-1-1-2F/tel:03-6666-9862 月曜休み。
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