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Nakako Hayashi

Nakako Hayashi, her style of fashion

林央子『拡張するファッション』をめぐるダイアローグ。

2011.06.21 update | INTERVIEW

林央子×兼平彦太郎=対談
dialogue:Nakako Hayashi x Hikotaro Kanehira
editing:Yuki Kageyama
photographs:Tohru Yuasa(B.P.B.)

上は、東京・渋谷のSPBS(シブヤパブリッシングブックセラーズ)での林央子さん。6月30日(木)まで「林央子とガーリーカルチャー」フェアが開催されていて、林さんの著書のほか、花椿、relax、olive、purple のバックナンバー、HIROMIXや長島有里枝の絶版写真集もそろい、ガーリーカルチャーを追体験できる。
東京都渋谷区神山町17-3 tel:03-5465-0577
www.shibuyabooks.net

現代ファッション史を語る上で外すことの出来ない重要な一冊『拡張するファッション』がこの春上梓された。BLESS、スーザン・チャンチオロ、コズミック・ワンダー、マーク・ボスウィック、エレン・フライス......本書を通し、著者の林央子はファッションとアートの境界線上で独自の表現を追求し続けてきたクリエーター達に寄り添いながら、「クリエーティビティの本質とは何か?」という問いを私たちに投げかけてくれる。
そんな林の仕事に共感し聞き手を務めた兼平彦太郎は、「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」展に携わった気鋭のキュレーターだ。本インタビューで共有された問題意識、すなわちアーティストの「編集的な視点」と「交換不可能な作家性」は、2000年代以降、私たちが置き去りにしてしまったクリエーションの最良の財産だったかもしれない。

Nakako Hayashi Nakako Hayashi Nakako Hayashi Nakako Hayashi

上は、原宿・VACANTの一角に作られた林央子コーナー。著書のほか、彼女がコレクションしているスーザン・チャンチロの作品や、非売品だが、パープルのバックナンバーを始め、今では入手困難な本も並び、ナカコ・ワールドが体感できる。林さんが撮影したスーザンなどのドキュメント映像も常時流れている。このほか、『拡張するファッション』刊行記念イベントも、随時開催される。6月25日(土)17時からは、林央子×金氏徹平トークショーがある。詳細は、http://t.co/7kriaI6

兼平彦太郎(以下、K)
林さんは90年代「花椿」のお仕事でパリコレに通っていらっしゃいましたが、本書に登場するアーティストは皆、パリモードのメーンストリームとは異なる方達ばかりですね。そうしたアーティストやクリエーターへの関心はどのようにして生まれたのですか?
林央子(以下H)
90年代前半のパリコレに関しては、マルタン マルジェラは衝撃的でしたね。ですがそもそも「花椿」自体、ハイブランドのショーを全部カバーするという媒体でもないですし、保守的なパリモードが色濃かった時代に、むしろ新しいクリエーションの現場はロンドンだという意識が編集部としても強かったんです。
「花椿」に入った頃、私は海外雑誌を読む担当をしていて、「イタリアンヴォーグ」、「Harper's BAZAAR」を始め「i-D」や「FACE」などを編集部で購読して読んでいたのですが、当時パリには若手フォトグラファーが表現する媒体がなかったので、ファッション写真の実験的な場はもっぱらロンドンの「i-D」「FACE」でした。とくに90年代はマーク・ボスウィックやヴォルフガング・ティルマンスらによって、アンチモードな写真がファッション写真に異質性をもたらした時代で、それによってファッション雑誌が刺激的な存在になったんです。またそこで実験的なクリエーションを行なって、それがファッション界の目利きの目に留まればパリに行ったり、「ヴォーグ」で活躍したり、という流れがあったんですね。そうした土壌があったものですから、「花椿」でも表紙撮影と言えばクリエーティブな実験をとことん追求できるロンドンで行なっていました。
K:
「Purple」のエレン・フライスとの出会いもその頃ですか?
H:
エレンとは、パリコレに通うかたわら、個人的なリサーチとしてポンピドゥ・センターに訪れた時に「Purple」創刊号を発見したのが最初ですね。これは面白い雑誌だと思って、「花椿」で紹介したのがきっかけです。エレンは元々気鋭のキュレーターとして活躍していた女性で、周りにはアート関係者ばかりだから、今度来た時には一緒にマルジェラのショーを見に行こうと言われて。それから毎シーズン会うようになりました。

「here and there」がつなぐ人々の輪

K:
エレン(・フライス)やマーク・ボスウィック、BLESSなど、クリエーターとの親密性を築き上げながら、ある種の審美眼に基づいて彼らを関連づけ紹介するというのは、編集者という職業が持つ一つの職能なのだと思います。僕は元々雑誌が好きで、特に林さんが紹介し結びつけてきたアーティストやクリエーターにも非常に影響を受けています。きっと僕だけではなく、「林央子」という一人のクリエーターに集うファンは多いと思いますし、逆に林さんにひきつけられるように集まってくるクリエーターもいるのではないでしょうか。
H:
スイスのzineパブリッシャー「nieves」のベンジャミン(・サマホルダー)は、私が「here and there」を始める前に作った本『baby generation』(リトルモア/96年)を見て外国から会いに来てくれた初めての人です。スイスの小さな街出身のスケーターだったベンジャミンは、美大でグラフィックデザインを専攻していたのですが、たまたま夏休みに東京にやってきたんです。最初は彼も、東京に憧れる学生のうちの一人だったんですね。それからしばらくして、私が「花椿」から離れて休職していた2000年頃に、彼が作る「zoo magazine」という雑誌の責任編集をしてくれと頼まれたんです。スーザン(・チャンチオロ)の絵と私のテキストで構成した頁や、マイク(・ミルズ)が京都で滞在制作したビジュアル、「Purple」のエレン(・フライス)のテキストやキム・ゴードンの絵などを集めたものになったのですが、それが「here and there」を始める原体験だったかもしれません。
K:
それは林さんご自身にとっても、大きな出会いになりましたね。
H:
そうですね。彼も当時は自分でzineを作ったり雑誌を作ったり色々なことに興味があったと思うのですが、試行錯誤するなかで結局はパブリッシャーという方向性を自ら決めて、現在はnievesを立ち上げて活動しています。「here and there」を始めてからも、バイリンガルの雑誌なのでそういう意外な出会いが結構おこります。この間「here and there vol.10」のリリースパーティに来てくれた韓国の若者は、数年前に「here and there」のディストリビューションをしたいと申し出てきてくれました。元々はファッションデザイナーを志していたんだけれど、韓国でこういうインディペンデント雑誌などのディストリビューションをしている人はまだいないから、自分が初めてになるかもしれない、ということで。彼にしろベンジャミンにしろ、自己形成の途上で「here and there」や私に共感して会いにきてくれて、「自分なりの何か」をかたちにするきっかけにしてもらえることはとてもうれしいことです。

交換不可能なクリエーティヴィティ

K:
僕はこの間「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」展(金沢21世紀美術館ほか、2011年)に携わらせていただいたのですが、そのなかで単に写真家・ホンマタカシの写真をホワイトキューブのなかで展示するだけではなく、ホンマさんの雑誌を含めた印刷物の仕事についても見せたかったんです。
中学生や高校生のころ、特にアーティストとかクリエイターという職業の区別はついていなかったけれど、雑誌は「格好いいもの」とか「おしゃれなもの」を表現している場所だという感覚がありました。当時の雑誌が僕自身の考え方や感性に与えた影響はとても大きいと思うし、またそうした雑誌で活躍してきたホンマさんの仕事をないがしろにしてしまうと、「ホンマタカシ」という人の活動を伝えるうえで重要な側面を取りこぼしてしまうのではないかと思ったんです。
H:
そういう兼平さんの感覚はすごく新鮮だし、これまでの日本のアートワールドに欠けていたニュートラルさではないかと思います。アートの世界で雑誌の仕事が軽んじられているところがあるじゃないですか。実際は非常にクリエーティブな仕事なのに、なぜかそう思われてない。ロンドンやパリのなかのどこかに確固としてあるシーンと、東京はどこか違うんです。商業的にサクセスしているかどうかではなく、クリエーションの質で認められる。その人の世界観が認められれば、ちゃんと個としてリスペクトされるんですね。
日本では編集者にしてもカメラマンにしても、個として扱われることが少ないというか、交換可能な存在とみなされてしまう。さらに言えば、その交換できない作家性を、消費されやすいユースカルチャーの現場で戦いながら示していくのは大変なことです。ホンマさんはずっとそういう雑誌の匿名性の現場で自らをプロデュースしながら、独自の作家性を獲得してきたからこそ、希有なクリエーターだと思っています。
K:
ホンマさんの雑誌の仕事にしても、商品が一切入ってないページがあったりして、単なるファッションページではない、その服がもつコンセプトやストーリーを誌面でしっかり表現して伝えていると思うんです。対象への向き合い方が即物的ではなく、編集が入っているというか......。
だから、なおさら美術館の壁に写真を回顧的に順番に並べてみるのではなく、そうしたホンマさんの「編集力」とそのうまさ、おもしろさ、作家性を見せたかったというのはありました。
H:
これまで美術館に入ることを良しとしなかった作家が、はじめて美術館と関わりをもった。その触媒として、新しい感性で写真やホンマさんの仕事を見つめる兼平さんのような存在があったことが重要だと思います。ホンマさんの行なう表現は、フィールドが雑誌であれ美術館の展示であれ、すべてにおいてホンマさんの意思が反映され「編集」されているところも面白さの一部。観客は様々なフィールドでホンマさんの作品と出会うきっかけを与えられるから、自由に読解しようと試みたり、より積極的に関与できるのではないかと思います。

ファッションを即物的に買う時代に

H:
昨年フランクフルト近代美術館で「Not In Fashion」展という展覧会が開催されました。90年代にファッションの周辺で活躍した写真家たちと服の作り手たち、たとえばスーザン・チャンチオロやBLESS、バーナデット・コーポレーションなどが取り上げられた画期的な展覧会で、図録にもコムデギャルソンの『Six』にはじまり、『Purple』やヘルムート・ラングの広告写真など、90年代に刺激的だった印刷物やファッションイメージが集められています。結局ファッション誌において質の高いクリエーションが生まれるポイントとは、ノット・イン・ファッションという姿勢なんだと思うんです。被写体が服であるとき、ファッションのディテールを表現することは勿論ファッション写真の重要な役割であるわけですが、突出したクリエーターたちはさらに、そこに自分自身のストーリーを込めた表現を行おうとする。それはシステム的には決して、たやすく生まれるものではなく、さまざまな障害をのりこえた上で生まれた表現でした。兼平さんはそのことを直感的に理解されていますが、ホンマタカシさんもそうした姿勢を示した作家の一人だと思います。
K:
それはよくわかります。林さんが本書のなかで書かれているように、ガーリーカルチャーの時代、そうした雑誌の編集者やクリエーターによって表現されていたストーリーや時代の雰囲気のようなものを、皆が共有していたと思うんですね。しかし今は限定ものの情報に我先に飛びついたり、即物的に洋服を買うようになってしまった感じがします。工夫しておしゃれをするとか、その服の背景を探っていくという感覚を置きざりにしてしまったんじゃないかと思うんです。
H:
『拡張するファッション』の感想で、「これでいい」というファストファッションの選び方とは別に、「これがいい」という服の選び方があるはずだ、とコメントして下さった方がいました。この本のなかでは、BLESSの背後にあるストーリー、つまり作家性ですよね、スーザン・チャンチオロの作家性、コズミック・ワンダーの作家性を詳細に書いていて、「これがいい」という私なりのストーリーを提示しているつもりです。もちろん時代の大きな流れに対して、私がどうこうできる立場ではないけれど......やっぱり即物的に服を買うだけだと、自分自身への愛着が育たないと思うんですね。なかなか自己肯定感が抱けなくなるというか。
みんな薄々気づいてはいると思うんです。でも圧倒的な情報量と、経済的、時代的な環境で、どうしようもないと思い込んでしまっている。だからあえて「それだけじゃないよ」って伝えたかったんです。ファストファッションで、セレブスタイルを追いかけるような購買の仕方が時代の大勢なのかもしれないけれど、スーザンの服もいまの東京で買えないわけじゃないし、コズミック・ワンダーもBLESSも買うことができますから。でも一番大切なのは「何かを自分の目で発見しようという気持ち」があるかどうかということと、ファッションに対するセンシティブな感性を保ち続けることができるかどうか、なのではないでしょうか。
この本のなかに取りあげているブランドの服を買わなければお洒落じゃないとか、そういうことを言いたくて提示したわけではありません。もっと考えてみよう、別な世界もあるよ、ということを提案してみたつもりです。芯から愛着を抱くことができて、それを着ることで自分を肯定できるような服を着よう、という気持ちを持つことが大事。自分がそれによって快適になれるのなら、服自体の値段は関係ないし、選択するものが古着や、誰かと交換した服だって良いわけですから。

林央子
Nakako Hayashi
編集者。1988年、ICU卒業後資生堂に入社。宣伝部花椿編集室(後に企業文化部)に所属し、『花椿』誌の編集に13年間携わる。2001年よりフリーランスとして国内外の雑誌に寄稿、2002年にインディペンデント出版のプロジェクト『here and there』(AD・服部一成)を立ち上げ、2010年までに10冊を刊行。著書に『パリ・コレクション・インディヴィジュアルズ』『同2』、編著に『ベイビー・ジェネレーション』(すべてリトルモア)がある。2011年5月に自身初となる著作集『拡張するファッション』(ブルース・インターアクションズ)を刊行した。
nakakobooks.seesaa.net
books.bluesinter.jp/kakucho/wordpress

兼平彦太郎
Hikotaro Kanehira
キュレーター。国際展事務局、新聞社事業部などで下積みを経験し、インディペンデント・キュレーターとして活動を始める。アーティストブック『THE ABC BOOK by Shimon Minamikawa』(2010)の企画・発行、「ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー」展(金沢21世紀美術館、オペラシティアートギャラリー、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館巡回、2011-12)の企画・構成協力のほか、アートメディアでのライティングなど活動は多岐に渡る。今年の夏はヨコハマトリエンナーレ2011「OUR MAGIC HOUR」(8月6日~11月6日)のキュレトリアルチームに参加。

Nakako Hayashi 林央子『拡張するファッション』
"ガーリーカルチャー"、ブレスやコズミックワンダーなどの"クリエイティブファッション"、"スーザン・チャンチオロ"、"『Purple』"を4本の柱に、編集者、執筆者として20年間にさまざまな媒体に書いた記事を再構成した文章に、書き下ろしを加えてまとめた書籍。小さな布片を集めてみたら、すばらしい絵が見えてきたような、読みやすい文章の集積が、読み終わると、重い内容にコミットしていたような、そんな魅力的な書籍である。巻末には林央子の視点で編まれたファッション年表もついている。ブルース・インターアクションズ刊 1890円 

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