守本勝英=写真
photographs:Katsuhide Morimoto (S-14),
Tohru Yuasa(B.P.B.)(still life)
上は、出版記念イベント「集まれ!IQ84以下!」で、ライブペインティングを行う中原昌也。
2.「文章を書くようなロジックなことは大嫌い」
- ——
- 絵を描き始めたきっかけを教えてください。
- N:
- 僕は、もともと絵を描くことが好きなんですよ。どちらかっていうと文章を書くようなロジックなことは大嫌いだし、本当は全然向いてないんです。絵を描き始めたことが先で、文章を書くことは最初からやる気がなかった。父親が絵を描く人だったから、物心がついた頃には、自然に描いてました。
- ——
- お父さんの影響はあるんですか。
- N:
- 環境的な影響以外ほぼないですね。僕とはまったく違います。
- ——
- 学生時代は何に興味を持っていましたか。
- N:
- 暗かったと思うけどな。大人の友達しかいなかったですね。
- ——
- それは音楽を通してですか。
- N:
- いや、いろいろなことに興味を持っていました。内向的だけど、友達は多いほうでした。boidの樋口さんも映画の関係で中学生の時から知っているんですよ。
- ——
- 当時はどんな映画を見ていたんですか。
- N:
- ホラーもゴダールもジャンルを問わず何でも見ていました。昔の方がいろいろな映画を見ていたなと、最近、酒を飲みながら思い出します。以前よりも今の方が、昔の映画を見ていいなと感じている自分が許せない。多分、今はもっと現実に目を向けるべきだと思うのに、現実に浸っていられない感じがあるんだと思います。映画を好きだという人と話していると、どんな映画が面白いとか良いとかそんな話ばかりだし、そんなことを言っている場合じゃないだろって思います。もっとみんな現実に目を向けないといけないんじゃないか、後ろ向きになるのはその後なんじゃないかって。今は、そういう意味でも無邪気さがないですね。これから新しいものは作れないかもしれないし、後向きなものしか作れないかもしれない。でも何もしないよりはマシだ。とにかく僕はただで提供するものは作りたくないですね。お金のためにやっているってことは、他人のためにやっていることと同じですよね。誰も他人なんて欲してないのかもしれないけど、僕は勝手にやってそれがお金になることをするしかないです。それを負け戦でもやらないといけない使命感みたいなものは常にあります。
- ——
- 『作業日誌』('08年、boid刊)を拝見させていただくと、文章を執筆することについて、苦痛だ、不本意だと書かれていますけど、絵を描くことや音楽を作ることについてはまったく不満を書かれていませんね。
- N:
- それはやっぱり楽しいから。その通りとしか言いようがないです。文章をずっと書いていると人間的に崩壊するから本当に向いてないんだと思います。それは『作業日誌』から十分伝わると思うんですけど、今でもあれは嘘なんだろうとか言ってくる人もいます。そういう人は、どんなに自分が嫌な思いをして文章を書いているか分かってなくて本当にぶん殴ってやりたい。
- ——
- 中原さんにとって画集を作った喜びはどういったところにあるのでしょうか。
- N:
- 紙切れに適当に描いてゴミだなって思ったものでも印刷されたときには、すでに他人のもののように変わって、立派なような作品に見えたりする、そういう変化していくことの楽しみって、多分、インターネットで作品を発表することでは味わうことができないと思います。例えば、海外の本で作品を見ると、実際、自分の目で見たものとはまったく違います。何よりも近づいて見たときに照明による光が加わったり、そういうものが存在している感じが、また別のところにあるっていうことが楽しいですよね。作品っていうのは、固定されたものじゃないから作っていて面白いし、完成した後の動きが一層、面白い。だから印刷された後では、存在が違うってことも分かりました。それに比べて、活字はただの活字ですからね。大きくしようが小さくしようが基本的には一緒。文字組みを変えれば雰囲気は違うのかもしれないけど、その程度の自由さしかないですから。僕はそこにまったく喜びを感じません。
- ——
- でも文章の方が、気持ちが中に入っていけますよね。言葉から入って、読む人次第でまた自由な動きを始めるようなところがあると思いますが。
- N:
- 自分は本当に嫌っていうことです。それに今ってそういう自由さをどこか許さない世界じゃないですか。同じものを同じように受け取るってことでしか安心がないっていうか。そういうことを逆に求めている感じがありますよね。文章のように開かれたものが、逆に必要とされてない感じがする。だから、共感とかそういう話になるんだと思います。
- ——
- 実際、出来上がったこの本をご覧になってどう思いますか。
- N:
- 満足感じゃなく、違う感じになったなって。自分でもこんなものをよく三週間で作り上げたと思います。改めて見ると痛々しい。短い間によく文章も書いたな。
『IQ84以下!』
フィルムアート社刊(www.filmart.co.jp)、3,780円。
A5判、136頁。両面刷りポスター、初版限定CD付き。
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boidでは、本の刊行を記念したTシャツとバッグを発売中。
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出版記念イベント「集まれ!IQ84以下!」の模様。
中原昌也が、4組のミュージシャンの演奏に合わせて、即興で描き上げた作品。
ヘア・スタイリスティックスの最新CDアルバム「Live:Album」
昨年の9月に六本木のスーパー・デラックスで行われた4時間のライブを収録。ジャケットのデザインは、中原昌也。紙ジャケット仕様、3枚組。3,300円。
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中原昌也
1970年東京生まれ。'88年頃よりサンプラーなどを用いて音楽の制作を始める。'90年、アメリカのインディペンデントレーベルから"暴力温泉芸者"(Violent Onsen Geisha)名義でLPをリリース。ソニック・ユース、ベック、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンなど錚々たるバンドやミュージシャンの来日公演でのオープニングアクトに指名される。'95年のアメリカンツアーを始めとて海外での公演も多数。'97年からユニット名を"ヘア・スタイリスティックス"(Hair Stylistics)に改める。音楽活動と平行し、映画評論家や小説家としても活躍。'98年に初の短編小説『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』(河出書房新社)を発表。2001年に『あらゆる場所に花束が......』(新潮社)で三島由紀夫賞、'06年に『名もなき孤児たちの墓』(新潮社)で野間文芸新人賞、'08年に『中原昌也 作業日誌 2004→2007』(boid)でBunkamura ドゥ マゴ文学賞を受賞。