TARTAN タータンの歴史と意味

『装苑』2003年10月号
古賀令子(文化女子大学教授)=文

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ TARTAN

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ロブ・ロイ タータン
18世紀、悪徳貴族に陥れられ、しいたげられた同胞とともに反旗をひるがえしたロブ(ロバート)・ロイ・マクレガー。スコットランドに実在した英雄で、その名にちなむロブ・ロイというタータンがある。

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ ロブ・ロイ タータン

クラン・タータン スチュワートの種類
スチュワートと名がつくタータンはおそろしくその数が多い。スチュワート家は12世紀にスコットランドに渡ったノルマン人を先祖に持ち、多くの王を輩出した家系。中には16世紀、エリザベス1世と王位を争ったメアリー・スチュワートもいる。1822年、ウォルター・スコットの努力でジョージ4世がエジンバラを公式訪問した時に身に着け、ジョージ5世はウィンザー家のタータンとして採用、ヴィクトリア女王にも愛された。ドレスはダンス用で地色を白、ハンティングは狩用で自然にとけあう緑や青が中心。アンシェントは草木の染料を用い、モダンは近代の合成染料を用いたもの。分家を含めると膨大なバリエーションになる。

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart of Atholl Ancient
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart of Appin
Hunting Ancient
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart of Appin Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Blue Dress
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Black Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Dress Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Dress Weathered
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart of
Galloway Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Hunting Ancient
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Hunting Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart
Hunting Weathered
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Prince
Charles Edward Modern
 

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ クラン・タータン

Stewart Royal Modern

タータンの起源

 タータンといえば、スコットランド伝統の格子柄であることは周知のことだろう。しかし、この格子柄が、単にスコットランドの人びとから長く愛好されてきた装飾模様などではなく、スコットランド文化の本質に深くかかわる重要な要素であり、その民族のアイデンティティに直結していることから政争や戦争の要因ともなった存在であることは十分に理解されていないかもしれない。タータンは誇り高いスコットランド人のシンボルなのだ。
 スコットランドとそのタータンの歴史は極めて長いが、その住人が文字らしい文字を持たなかったこともあって、その起源は当地の気候にも似て霧に包まれている。住人はケルト系民族であり、その祖先は人類揺籃の地ユーフラテスの渓谷から出発して、スペインにはバスク人を残しフランスにはブルターニュ人を残しながら長い時間をかけてヨーロッパ大陸を横切り、さらに海を渡ってアイルランドやスコットランドに定着した。スコットランドは当時、9世紀頃にこの名で呼ばれるようになる以前は、「アルバ」と呼ばれていた。アルバのケルトたちはローマ人から「ピクト人」と呼ばれたが、これはラテン語の「ピクトール(絵描き)」あるいは「ピクトゥラトウス(彩色された)」という語に由来するという。ローマ人がなぜこの名をつけたのかについてはさまざまな議論があるが、その学説の1つに「多色使いの布、つまりタータンを作る能力を示したもの」というものがある。確かにこの民族以外にこの技術をもったものはなかったらしい。それほど昔から、タータンはスコットランドのケルトたちとは切っても切れない関係にあり、彼らを識別する存在だったのだ。
「タータン」という言葉が定着したのは16世紀頃である。語源は、これも諸説あるが、フランスの古語で「麻と毛の交織織物」という意味を持つ「テリターナ(teritana)」から転訛したものとも考えられている。タータンといえば現在では多くの人が思い浮かべるのはウールの糸染め織物だが、当初は麻織物だった。それが、高地地方(ハイランド)で羊毛が十分に得られるようになると、防寒性に優れたウールを用いるようになり、格子柄に織って毛布や敷物に用い、衣服としても身に着けるようになったのである。
 

スコットランド社会におけるタータンの意味

 スコットランドに定住したケルトたちは、次第に血縁関係の団結を重視する独自の社会システム「氏族制度(クランシップ)」を形成していった。そして高地地方(ハイランド)を中心に氏族(クラン)や一族(ファミリー)を象徴するタータンのチュニックや後にはショールをユニフォームのように着用して、その団結を表わすようになっていく。
 常に隣接する強国イングランドの脅威にさらされ続け、また部族間の争いも絶えなかったスコットランドのタータンは、戦場では敵と味方を見分けるという、日本の旗印にも似た役割を果たした。また、氏族(クラン)を象徴する装飾文様であるタータンは、日本の「家紋」と比較されることもある。しかし分家も本家と同じものを用いる日本の家紋に対して、タータンの場合、分家は独自の新しいパターンを用いるという点が異なる。
 また、1つの氏族(クラン)や一族(ファミリー)の中でも、時と場合によっていくつかのタータンが使い分けられた。日常用いられる「クラン・タータン」、正装用の「ドレス・タータン」、狩猟やスポーツ用の「ハンティング・タータン」、喪に服する時に着用した「モーニング・タータン」などである。また、現在幅広く用いられている「ブラック・ウォッチ」のように軍隊の制服として用いられたタータンもあった。
 地位や身分による制約もあった。農民や兵士は1色、将校は2色、族長は3色で、貴族は4〜5色使いが許され、王族は7色も用いた。そして、パープルの使用は王に限定されていた。当時のタータンは自生する植物で染色され、現在の合成染料による鮮やかな色彩とはかなり異なったものだったが、それにしても位が上になるほど色柄が複雑で贅沢なタータンを身に着けることができた。族長及びその直系家族しか着用できないものは「チーフ・タータン」、王族専用のものは「ロイヤル・タータン」と呼ばれている。
 このように、スコットランド社会の骨組みの一部となったタータンは、スコットランド魂の象徴としてイングランドに対する抵抗の旗印ともなっていく。映画「ブレイブハート」のウィリアム・ウォレス(13世紀)や「ロブ・ロイ」のロバート・ロイ・マクレガー(18世紀)のように、圧制者であるイングランドの貴族たちと戦うスコットランドの英雄たちは、必ず伝統的なタータンを着用して、華やかな宮廷ファッションのイングランド貴族と対比的に描かれる。1745年にスコットランドのスチュワート一族が、イングランドに対して王位奪還の反乱を起こしてそれが鎮圧された後、タータンは着用を禁じられた。禁令は1782年に撤回されたが、タータンが本格的に復活したのは19世紀に入ってからである。
 

ファッションとしてのタータン

 ウォルター・スコットのロマン小説などによってスコットランドへの関心が高まり、映画「クィーン ヴィクトリア 至上の恋」にも描かれているように当時の女王夫妻が王家の避暑地であるスコットランドのバルモラルを好んで度々逗留したことも、スコットランド・ブームに拍車をかけた。タータンもファッションとして大きく脚光を浴びるようになって、1830年以後タータンを収集した本がいくつか出版された。しかし、その多くは当時新たにデザインされたもので、現在まで残るタータンのほとんどはこの時代以後に生み出されたものである。
 氏族(クラン)の象徴のタータンだけでなく、スコットランドの庶民に着用された地方色豊かなツイードや格子柄も注目された。スコットランド低地地方(ローランド)の「シェパード・チェック」(羊使いの格子の意、いわゆる千鳥格子)やこれをアレンジした「グレン=ウルクハート・チェック」(略してグレン・チェック)などは「ディストリクト・チェック(地方格子)」と呼ばれる。ヴィクトリア女王の夫アルバート公が自らデザインしたと伝えられる「バルモラル・チェック」もこの範疇に入る。
 タータンやその仲間たちは、今なお極めて重要な装飾文様である。日本ではあまりにもポピュラーな「バーバリー」を筆頭に、「アクアスキュータム」や「スコッチハウス」などいわゆる「ブリティッシュ・トラッド」のブランドでは、その象徴あるいは商標として独自のチェックを開発し、存分に活用しているが、こうしたチェックは「ハウス・チェック」と呼ぶ。
 また、スコットランドの氏族(クラン)やその一族(ファミリー)とは無縁の、ヨーロッパやアメリカの、そして日本のデザイナーたちも、タータンの活用に熱心である。ましてや、もともと歴史の引用を十八番とする本家イギリスのファッション・デザイナーたち、たとえばヴィヴィアン・ウエストウッドやジョン・ガリアーノらは、当然の権利としてタータンをそのクリエーションに組み入れてタータンの魅力をパワーに取り込んでいる。タータンの血統をその名が示すアレキサンダー・マックイーンにとって民族の誇りのシンボルを高く掲げることは、むしろ義務といえるかもしれない。
 ちなみに、マックイーン(McQueen)とかマクドナルド(McDonald)、マッキントッシュ(Mackintosh)といった姓の「マック(Mac)〜」とは、「〜の子供たち」という意味だが、このような姓はスコットランドやアイルランドに多く、それぞれが先祖伝来のタータンを持っている。こうした身近なマック(Mac)たちのタータンを「チェック」して、その先祖たちの物語に想いを馳せてみるのも面白いだろう。
 

District Check ディストリクト・チェック

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ シェパード・チェック

シェパード・チェック

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ グレン・チェック

グレン・チェック

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ バルモラル・チェック

バルモラル・チェック
ヴィクトリア女王の夫君アルバート公がデザインしたといわれるもので女王が友人への贈り物とした。王室独占使用のチェック。

 

ハウス・チェック
英国伝統のブランドが商標として開発した独自のチェック。トレンチコートの裏地にはハウス・チェックが使われることが多い。
アクアスキュータムのおなじみチェック。

ファッションマテリアル 装苑アーカイブ ハウス・チェック

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